1. いま聞きたいQ&A
Q

日本の人口減少が問題視されているのは、どうしてですか?

2060年までに生産年齢人口が半減する

日本経済の中長期的な課題を探る政府の有識者委員会「選択する未来」が、今年(2014年)5月13日に「50年後に1億人程度の人口を維持する」との国家目標を打ち出しました。その背景には、急速に進む人口減少と高齢化をこのまま放置した場合、将来的に経済成長率の低下や財政破たん、社会保障制度の行き詰まりなど、日本経済への多大な悪影響が及ぶという危機感があります。

厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の人口は2048年に1億人を割り込み、60年には8,674万人と現在の3分の2まで縮小します。65歳以上の高齢者が占める割合は10年の23.0%から60年には39.9%まで上昇し、働き手となる15~64歳の生産年齢人口は10年の8,173万人から60年には4,418万人までほぼ半減すると予想されています

人口減少が経済成長率に及ぼす影響について供給サイドから、経済の実力を示す潜在GDP(国内総生産)の成長率で説明する方法もありますが、ここではもっと単純に考えてみましょう。GDPとは日本が生み出す付加価値の総額であり、経済学の教科書的にいえば「GDP=消費+投資+政府支出+(輸出-輸入)」の式で表すことができます。

生産年齢人口は働き手(稼ぎ手)であると同時に消費(内需)の主役でもあります。その数が減っていく過程では、企業は内需の増加を見越した国内での新規投資を控えざるを得ません。結果として国内では消費も投資も減少するため、GDPは成長率はもちろん、規模自体も縮小に向かうことになります

生産年齢人口が減っても高齢者人口が増えるのなら、高齢者による消費の増加に日本経済のリード役を期待する手もありそうですが、事はそう単純ではありません。前出の推計によると、高齢者人口は10年の2948万人から増加傾向を続けた後、42年の3,878万人をピークに減り始め、60年には3,464万人になるそうです。すなわち、総人口に占める高齢者の割合は上昇しても、高齢者の数はそれほど大きくは増えないわけです。

高齢者の数を地域別に見ると、20年まではすべての都道府県で増加しますが、その後は東京・大阪・名古屋の3大都市圏で大きく増加する一方、地方の一部では減少に転じるところも出てきます。高齢者の減少と若者の流出が重なって人口減少が進み、40年には現在約1,800ある地方自治体のうち523が消滅する可能性も指摘されています。

対策が経済成長ばかりに偏っていないか?

「選択する未来」が掲げた人口維持の国家目標を実現するためには、1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率を、現状(2012年)の1.41から30年頃までに2.07へ引き上げる必要があります。そのための方策として、出産・子育て支援予算の倍増構想などが打ち出されていますが、出生率2.07はきわめて非現実的な数字と言わざるを得ません。

子供を持ちたいという希望はあるものの、何らかの理由によって出産を諦めている女性が全員出産したと仮定しても、出生率は1.8程度にとどまるという試算があるからです。子供が欲しいと考える人が増えなければ目標達成は難しいのが現実であり、支援予算を増やすことよりむしろ、どのようにして人々に子供を持つことへの希望を抱かせるかが課題なのかもしれません。

出生率の引き上げが難しいなか、女性と高齢者の就業率アップや、移民の受け入れを始めとする外国人材の活用を急ぐべきという声も上がっています。例えば女性の就業率アップが急がれる背景には、家事や育児などの「無償労働」がGDPに含まれていないという問題があります。

内閣府の試算によると、女性がこうした無償労働をしたのと同じ時間だけ企業などで働いたと仮定した場合、11年に日本全体で111兆円弱の収入が得られた計算になるそうです。これはGDPの約4分の1に相当する大規模なものです。また、女性が働きに出れば家事や育児関連サービスの消費が増えることが予想され、その分がGDPを押し上げる効果も期待できます

一方で、経済成長がそのまま国民の豊かさにつながるとは限らないという意見もあります。女性が働きに出て購買力が増したとしても、それを家事や育児のサービスに使うだけなら、GDPは増えても家計としてはプラスマイナス・ゼロにすぎません。女性が安心して働くためにはより多くの保育所や介護施設が必要であり、それらの整備へ向けて国民負担は増えることになるでしょう。外国人材に家事や育児を任せるとしても、文化の違いなどハードルは高いのが実情です。

人口減少への対策は、ややもすると出生率の向上や経済成長率の維持・上昇という数字面での効果ばかりが優先されがちです。しかし、その前段階として私たち日本国民が本当にそれを望んでいるのか、国民の豊かさとは何なのかといった生活意識に関する本音の議論が、もっと交わされてもいいような気がします。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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