1. 金融そもそも講座

第13回「そもそも、なぜ投資をするのか?」

投資には多様な動機

これまで2回にわたり、株や債券不動産や為替など大きな、多額な投資の対象に出来るものを見てきた。実は、大きなファンドが大規模に投資できる対象は、世界広しといえども案外少ないことを指摘した。むろん、小さいとはいえないが、ほかにも多くの投資家が資金を入れている対象はある。金は、危機が世界のあちこちで起きている中では人気だ。ゴールドについてはまた回を改めて取り上げる。

そもそもなぜ人は投資をするのだろう。何を目的に投資をするのか。多くの人は「そんな分かりきったことを!」と思うかもしれない。「持っているお金を殖やしたいからでしょう」と。むろんそれは大きい。しかし、一人一人の投資への思いをもう一歩深く探ってみると、事はそれほど簡単ではない。「お金を殖やすことに興味はなかったが、親しい友人に勧められたので」と友人関係の維持を理由に挙げる人もいる。「親戚から勧められたから」も同じ人間関係が背景だ。「会社から何回も勧められたので」も同じような理由からだろう。投資における人的ファクターは結構大きい。

「ボケ防止のために株式投資をしている」という人も案外多い。朝、一生懸命に経済紙を読み、場が始まるとネットで株価の動きを調べて、時に取引をする。朝の寄り付きと違った動きがあって終値が大きく変わったらその理由を調べ、証券会社の人と話をし、さらに海外市場に投資をしている人はアジア、欧州、そして米国市場の動きを、さらにはオセアニア市場の動向に気を遣う。それだけで人生は忙しくなる。やることが増えるわけで、退職した、比較的時間と資金に余裕のある人にとっては、儲けるよりも自分を“忙しく”する方が重要かもしれない。むろん、損するのは嫌だし儲けられたらなおよいことに間違いないが、株は“ボケ防止”と言う人は多い。

もっと若い人でも、趣味や勉強のために投資をしている人は多い。「投資をすると経済を勉強する気になる」「将来のために今ある少ない貯金を少しでも殖やしたい」「将来したいと思っていることをしたいので、今のうちに投資をしてお金を貯めておきたい」など多様だ。一般的には若い人たちが動かしているお金はそれほど大きくないだろうが、それでも人生のいくつかの局面で直面する“投資”という問題に早めに取り組んでおくのはいいことだ。

人知を超える市場

動機は何であれ、金融に興味を持って投資に取り組むことを決めた人には理解しておいてほしいことがある。それは、投資したお金や対象の値段がどう動くかは自分の知恵や理解を多くのケースにおいて大きく超えるものであり、投資は本来、非常に難しいものだということだ。

昔から「相場師」といわれる人はいるが、その大部分は、惨めな負けで人生を終えている。市場というのは、のめり込めばのめり込むほど難しさが増すものだ。なぜなら、市場に影響を及ぼす力は限りなく多様であり、その時その時によってより大きな力を持つ要因が変わるからだ。それを理解し尽くすことは無理だ。「プロ」を任じれば任じるほどそれが出来ると勘違いし、それが無理だと分かると自分で相場を動かそうとする。しかし、それはほぼ間違いなく悲劇を呼ぶ。

景気は常に変動し、企業が基盤とする市場の規模も大きくなったり小さくなったりする。為替の影響もあれば、政府の規制が変わることもある。自分以外の大きな投資家が予想外の動きに出て相場水準が一気に変わることもある。市場は常に、個人、一投資家の思惑を超えて動く。何せ市場に流れ込む資金の規模は膨大で、その動きも多様だ。

2008年秋に起きたリーマン・ブラザーズの破綻に伴うショックを考えてみると、いかに金融や市場が複雑な連鎖を持っていることが分かる。日本から見ると太平洋の向こうの出来事で、「日本への影響は小さい」という見方も当初あったが、そんなことはない。ニューヨーク市場に投資している投資家は、グローバル運用が基本の世界では必ず日本株も手掛けている。彼らはニューヨーク市場の損を埋め合わせるために、利益の上がっている日本株を当然売る。東京市場は売られれば下げる。つまり今の世界では、どこで起きた危機も“連鎖”して世界中の市場に影響を与えるのである。それはお金が国境なく世界中で血液のように流れているからだ。危機が“局地戦”で終わることはまずない。ギリシャの危機は、直ちに東京での材料になる。

言いたいことはこうだ。「市場はしばしばどんな賢い人の知恵、予想、思惑もしのいでしまう」。よって市場や投資と取り組むときに重要なのは、市場を最後まで予測するのは無理であり、自分の力の及ばないところで投資結果が出ることもある、という前提がまずあることだ。その上で、自分でも許容できる範囲の資金で投資をすること、市場と取り組むことである。つまり、ある意味“軽い気持ち”で取り組まないと、投資に足をすくわれる。100万円の貯金がある人は、不慮の事故など何かあってもよいように、やはり一定程度は常に流動性の高い貯金を残して、その残りを投資に振り向けることだろう。「余裕のあるお金」を運用している分には、市場の動きに対しても少し長期的に、理性的に対処できる。この心の余裕が投資には必要なのだ。

ファンドは収益目的

もう一つ重要なことがある。個人には「趣味」「勉強」「老後への備え」「人からの勧め」など、多様な投資要因があるが、他人様からお金を預かっているまっとうなファンド・マネージャーは例外なく「より高い利回り」を求めて運用をしているということだ。「安定」を売りにしているファンドがあるが、それでも目標は「安定した“高い”利回り」である。つまり、自分を信じて投資してくれた人の100のお金を、なるべく年間で105とか110にすることが目的である。つまり、市場を動かしている金の大部分は、やはり“増殖”が最大の目的だということだ。

であるが故に、儲かると思ったら機敏に大規模にお金を入れ、危ないと思ったら直ちに資金を他の市場に移動させるということだ。個々の投資家の市場参加、投資への誘因は多様だが、市場を動かしているような大きなファンドの関心は、趣味でも勉強でもなくいかに投資収益を上げるかという点にある。個人投資家は、こうした大きな波が行き交う大海では、小舟もいいところだ。だからこそ、個人は投資を「余裕資金」でやらねばならない。その気持ちを失うと必ず代償を払わされる。これは投資の世界での鉄則だ。

最後に一つ。「人からの勧め」は大体において危ない。そもそも、その“人”が確たる情報を持っているケースは少なく、また聞きのケースが多いし、既に多くの人が知っている情報である可能性が高い。相場には織り込まれているケースが多いからだ。また、お金を預けるなら“まっとう”な人、会社がいい。今でも多くの詐欺事件が起きているが、それには投資家サイドの不用意や勉強不足がある。注意したいものだ。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から1ヵ月程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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