1. 金融そもそも講座

第90回「世界で最も高い成長率」

今年(2013年)1~3月期の日本のGDP(国内総生産)伸び率が年率で3.5%となった。「2%台の後半」という予想を上回る成長率であり、始まったばかりのアベノミクスの成果もある。先進国の中では日本が今、最も高い成長率を達成している。しかし問題は多い。安倍政権の経済政策、日本経済と企業の真価が問われるのはこれからだ。

消費と輸出が伸びた

そもそもGDPとは経済統計の代表格のような存在で、当該国内における経済活動(生産や消費、投資、輸出入など)によって生み出される付加価値の総計だ。ある一国の純然たる国内経済活動の規模や動向を示す指標である。それが物価調整した“実質”で3.5%伸びたということは、それだけ日本全体の経済活動が活発化した、より多くの財やサービスを生み出したということである。

通常、この実質GDPが2四半期連続してマイナスになると「リセッション(景気後退)」と定義されるが、欧州はこのマイナス成長が6四半期も続いている。米国はプラスになっているものの、それほど強くない。日本は今、先進国の中で最も高い成長力を持つ国ということになる。これは「失われた20年」ともいわれる経済低迷が続いた日本が達成した数字としては、極めて高い。

GDPの構成項目には、消費、インターネット経由での輸出、住宅投資、財政支出、企業の設備投資などの一般的項目があるが、第1四半期は何が良かったのか?それは消費と輸出である。日本経済はGDPの6割近くを国民による「消費」が占める。米国はそれが7割を占めるが、中国は全体の4割しかない。GDPに占める消費の割合はそれぞれの国の経済活動の特徴が出る。米国のように高いと貿易収支が赤字になりがちで、中国は当然ながら黒字、かつ「投資」が活発な国ということで、それが経済を支えているということになる。

その消費はアベノミクスで株が上がったことから、持っている人が「株の評価もだいぶ良くなったし」と比較的高いもの(高級時計や高い衣服)を買ったことから増えた。高いものが売れると、消費が増える。また、1~3月には円安が進み始めたので、輸出が伸びた。

設備投資が依然として低調

この二つに加えて住宅投資や公共投資もまずまずだったが、一つ悪いことで目を引いたものがある。それは「設備投資」だ。前期比で0.7%減少した。これが意味するところは、「日本国内で工場が新たにできず、職場はあまり増えないし、安定的な所得を得られる人も増えない」ということだ。なぜなら、企業が設備投資をすれば工場などの数は増え、そこで働く従業員も増えるからである。となれば安定的な給料をもらえる人も増える。

日本の設備投資は、基調としては増える傾向にある。なぜなら1~3月期の「0.7%減少」は、減少幅としては2四半期続けてマイナス幅が縮んだからだ。しかし依然としてマイナスということは、戻り基調だが増えるところまでは行っていないのである。アベノミクスが成功するかどうかは、この「企業の設備投資が増えるかどうか」が最も重要なポイントである。なぜなら、金融緩和だけを背景に株が上がっても、その恩恵を受ける人はまだ少ない。無論、波及効果はあるが、「設備投資の回復→工場や職場の増加→常用雇用の増加→国民のより多くが所得の増加を謳歌する→消費を刺激」という形で広まるのが一番よい。誰もが恩恵を受けられる。

今後の課題は?

ではなぜ企業は「設備投資の増加」を国内で踏み切らないのか。それにはいくつかの理由がある。まず日本は人口が増えない、というより減っている。日本の人口は昨年28万人減少した。また一般的に言えることは、今の日本のように若い人が減り高齢者が増えるということは、消費は減り気味になる。なぜなら若い人は働いて車や家を買う。家を買うということは、家具や家電を買うことにつながる。

また海外に設備投資が向いているという事情もある。労働賃金も例えばベトナムやミャンマーの方が安い。海外でつくって日本に製品を持ってきた方がよいケースも多いと企業が考えている可能性もある。市場そのものも海外での拡大が続いている。

しかし恐らくは企業や国の“努力不足”もあるだろう。もっと少子高齢化に合わせた商品はできないのか、と考えてみる必要がある。多くの海外企業は、世界で最も高齢化が進んでいる日本で医療機器などを開発している。日本の企業はそれだけの努力をしているだろうか。また国は新しいマーケットを育てるための規制緩和を十分しているのだろうか。

「まだまだ日本にもチャンスはある」というのが私の考えであり、それは安倍政権も考えているだろう。設備投資の回復があって初めて、日本経済は持続的な景気回復に向かう。安倍政権は5月中旬に発表した成長戦略第2弾で今後3年間を「集中投資促進期間」とし、税制・予算・金融・規制改革・制度整備などあらゆる施策を総動員することで、年間70兆円の設備投資を回復したいとの方針を明らかにしている。これは実に妥当な方針だと思う。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から1ヵ月程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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