1. 金融そもそも講座

第193回 局面転換期の中銀政策
金利上昇に備える時

読者の方々が今回の文章を読むのは、FRB(米連邦準備理事会)が資産縮小に着手することを発表するであろう9月19~20日開催のFOMC(米連邦公開市場委員会)を、ほぼ1カ月後に控えた時期だろう。そこで今回は、FRBは具体的にどのように資産縮小を進めるのか、その間に再び景気が悪くなるケースをどう考えているのか、について取り上げたい ―― 日本ではあまり詳しく報道されていないようなので。

資産縮小の大枠での実施方針は既に6月のFOMCの際に付属文書として公表されている。かなり用意周到な計画であり、おそらく日銀がそう遠くない将来に資産規模縮小に着手する際にも参考になるだろうし、市場に参加する我々としても理解しておきたい点だ。

1兆ドル弱が4.5兆ドルに

その付属文書とは、今年6月14日のFOMC最終日に声明と共に出された。ネット上では「FOMC issues addendum to the Policy Normalization Principles and Plans」にある。この中に出てくるaddendumという単語は通常「補遺」と訳されるが、分かりやすく表現するなら「付属文書」。すなわち「政策の正常化に関わる原則と計画への付属文書」と訳すことが可能だ。つまり、これまでに4.5兆ドルになるまで積み上がったFRB資産増加のプロセスこそ「非正常(非伝統的金融政策)」であって、それを「正常化する」のが今回の資産縮小の原則・計画、という考え方だ。

では、そもそものFRBの資産規模というのはどのくらいだったのか。実は今から見れば非常に少ない。現在に至る超金融緩和政策の元凶になったのは2008年9月のリーマン・ショックだが、その直前のFRBの資産規模は9400億ドル前後だった。つまり現在の4.5兆ドルに比べると5分の1程度だったということだ。それが10年弱の間に急増した。リーマン後の米国経済がそれだけ深刻な危機で、中銀による(債券購入などの)流動性付与が必要だったという証拠だ。

しかし今や、インフレ率は低いままだが失業率など雇用に関する米国の経済状況は、FRBが目指した水準にかなり戻った。だとしたら、徐々に資産規模を減らしておかねばならない。前回も述べたように、次の危機に備えるためにも身ぎれいになっておく必要がある。

再投資しない枠を増やしながら

付属文書は次のように資産縮小が進められると説明する。たぶん9月のFOMCで発表され、10月実施になると思われる。

FRBの計画では、まず償還資金のうち再投資しない金額の枠を設ける。そしてその枠を超えた部分だけを再投資に回す。つまり枠の分だけ再投資、マーケットへの資金供給が減ることになる。当初の再投資しない枠(金額)は米国債が月60億ドル、政府機関債と住宅ローン担保証券(MBS)が合計月40億ドル。つまり100億ドルということだ。

それでスタートして、市場環境を見ながら3カ月ごとにこの枠(再投資しない金額)を引き上げて再投資に回す金額を減らしていく。米国債は3カ月ごとに60億ドルずつ引き上げ、1年以上かけて300億ドルにする。機関債とMBSは40億ドルずつ引き上げ200億ドルにする予定。つまり再投資しない金額はいずれ月500億ドルとなり、それが上限。

再投資しない額が上限に達した後は、金融政策が十分に効く資産規模になったとFRBが判断するまで、上限額による再投資縮小を続ける。これによりバランスシートは時間経過の中で縮小することになるが、FOMCによれば「金融危機以前に比べれば資産規模は依然として大きい水準」で打ち止めとなる可能性が高いという。金融システムが必要とする準備預金や将来の金融政策の有効性を担保する観点からも、FRBは当面の資産規模は「危機以前の水準(1兆ドル以下)」にはならないと表明している。

この計画だと、バランスシートが(13年に史上初めて突破した)3兆ドルまで戻るには3年かかる。3兆ドルを下回るのは21年になる見通しで、つまり時間をかけて実施するということだ。FRBの慎重な姿勢がうかがえるし、資産規模をリーマン・ショック以前には戻さないという方針からは、当時と今とでは経済の形が違うとのFRBの判断を読み取ることもできる。

危機再発にはあらゆる手段動員

資産縮小を進めている最中に新たな金融危機が起きたらどうするのか。FOMCはこの点についても先の付属文書の中で明記している。「The Committee affirms that changing the target range for the federal funds rate is its primary means of adjusting the stance of monetary policy.」の部分で、訳せば「フェデラルファンド(FF)金利の水準変更こそ、金融政策スタンス調整の第一手段である」となる。FRBの金融政策意図はFF金利操作に表れる、ということだ。つまり景気判断から金利引き上げを中断していても、資産規模の縮小を続けるケースがあるということだ。

しかし、続いて「経済見通しがFF金利の目標水準の大幅引き下げを正当化するような状況になったら(つまり危機が発生したら)、償還元本の再投資を再開する用意がある」とも述べている。これが明らかな危機対応だ。すなわち、経済危機でFF金利の大幅引き下げが必要な事態になれば、再投資しない枠を縮小するなり撤廃して、償還元本で債券なりを枠にとらわれずに買ってマーケットに流動性を付与する、ということだ。

さらに「その先」も考えていると示唆している。「Moreover, the Committee would be prepared to use its full range of tools, including altering the size and composition of its balance sheet, if future economic conditions were to warrant a more accommodative monetary policy than can be achieved solely by reducing the federal funds rate.」という部分で、「FF金利の引き下げのみで実現できる緩和策以上の政策が、今後の経済環境において必要な際には、バランスシートの規模と構成を変更するなど、あらゆる政策手段を使う用意がある」と表明。危機対応はぬかりなく準備し、断固として実施する心づもりがある、と強調している。

ではこの資産規模縮小計画はマーケットにどのような影響を与えるのか。それを次回に取り上げたい。(

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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