1. 金融そもそも講座

第177回 金利上昇、原油相場の底値抜け出し ― 2017年のテーマ

今年最後の回となるので、過去と比べて今年末の特徴がどこにあるのかを考えてみたい。今年を振り返る一方で2017年を展望する上で重要だし、今のマーケットを取り巻く環境を再認識するためだ。むろんマーケットの動きは速い。今の傾向が来年も年間を通して続くとは必ずしもいえない。しかし今なぜその動きが出ているのか、その背景を把握しておく必要はあるだろう。

米中心に上昇局面の金利

来年の世界の金利動向を予感させるように、米金融のかじ取りを担うFRB(米連邦準備理事会)は12月14日に今年最後のFOMC(米連邦公開市場委員会)を開催し、指標金利であるフェデラルファンド(FF)金利の0.25%引き上げを決めた。新しいレンジは0.5~0.75%となった。当初は今年4回の利上げを予定していたが、中国経済の動揺や欧州情勢の不安定、さらに米国経済が予想されたほどの強さを示さない中で、結局今年は12月1回のみの利上げとなった。

FOMCは今回利上げした背景として、FRBにとっての2つの目標、つまり雇用とインフレが目標に接近したからとしている。既に米国の直近の失業率は(4.5%とされる完全雇用に近い)4.6%になっており、また賃金も上昇傾向を強めている。利上げに支障は無い。インフレ率は、2%としている目標にはまだ少し遠いが、しかしそれも徐々に経済の強さを反映して上昇してきている。今後賃金の伸びがアップし、加えて後で触れる原油価格の上昇が続けば、2%達成も視界に入ってくる。

2016年の利上げは1回だったが、2017年はどうか。FOMCは利上げ発表と同時に予想資料(Projection Materials)を公表し、今後のFF金利の先行きを「2016年末は0.6%、17年末は1.4%、18年末は2.1%、19年末は2.9%」と予想している。リーマン・ショック以降の米経済が非常に低い金利を続けたことを考えれば、この「今後数年間にわたる年3回、合計で毎年0.75%前後の短期金利引き上げ継続」というのは、結構スティープ(急)な金利上昇に見える。なにせFRBが利上げしたのは、過去10年で2回だ。

利上げがあった14日の米長期金利は指標10年債の利回りで2.57%。その長期金利が例えば17年末、さらには18年末に何%になっているかを考えるのは、結構スリリングだ。今までの低金利時代からは予想もできない相当高い水準に行っている可能性がある。こうした米国での金利上昇は、当然日本や欧州にも波及する。既にECB(欧州中央銀行)は量的金融緩和の持続を決める一方で、期間ごとの国債などの購入額の25%引き下げを決めた。日本の長期金利も徐々に上昇してきており、黒田・日銀も「さらなる緩和」という状況ではなくなっている。

日本の金融政策の変更に関しては、12月15日の日経新聞が「経済・市場環境の改善が続くなら日銀は、来年には『利上げ』も」と書いている。利上げの中身については「長期金利の誘導目標(ゼロ%程度)を小幅に引き上げる」というものだが、スタンス変更の意味するところは大きい。

ましてや米国の金利が今後2~3年にわたって上昇基調になれば、日本や欧州の市場金利や政策スタンスは大きく変わらざるを得ない。トランプ次期大統領はそもそもドル安論者といわれていて、米国と日欧の金利差拡大によるドルの高騰をいつまでも見逃すはずがないから、ドル高抑制で日欧の金融スタンスも引き締め方向に変わらざるを得ない。

財政政策も投資重視へ

一方の経済政策の柱である財政政策を見ると、世界的コンセンサスとして、やはり従来型のものでなくても、財政政策の出動が必要だという意識が高まりつつある。日本や欧州の弱々しい経済状況は、金融政策だけでは景気の押し上げはできないのではないかという見方を強めた。

なによりも米国ではトランプ次期大統領が「米国再生の為のインフラ投資」「少なくとも5500億ドル、多ければ1兆ドル」というスローガンを掲げただけで、規制緩和の主張と相まって株価は大きく上昇した。それはマーケット的には、財政の出動と規制緩和の主張が勝利したともいえる。これは従来の――持続可能性のためにも財政は各国で緊縮型であるべきだ、大きな経済危機を避けるためには様々な分野、様々な業種で規制が必要だ――という考え方の逆を、世界が歩み始めたことを意味する。

むろん、では一体トランプ政権率いる米国は、何を、どこまでするのかという問題は残る。しかし当選からこれまでのトランプ次期大統領の行動を見ていると、相当に無理筋と思われることでも選挙戦の最中に自身が言ったことには比較的忠実に実現を図ろうとしている。金融業界の規制緩和には例えばFRBなどの抵抗が、独禁法関係では司法省のそれが予想されるし、それはまた妥当性のあるものも多いだろう。しかし米国では大統領の意向はやはり強いし、議会共和党も間合いを見ながら従来の民主党政権の政策とは異なる方向性を求めるだろう。

日本はアベノミクスの中で既に財政政策には出番を与えているし、その成果は一部あった。しかし今後金融政策が超緩和から徐々に出口を求めるものになれば、財政政策の重みは増す。欧州も同じような状況だろう。財政緊縮に対するイライラは、南欧を中心に政治的圧力となっている。

原油価格は下げ止まり、経済思潮も変化

世界経済にとってのエネルギーの大宗である原油のマーケットでも、安値予想が強かった過去数年とは異なる様子が見える。それはサウジアラビアの国内事情を主な背景にOPEC(石油輸出国機構)が日量120万バレルの減産を決めたのに加えて、ロシアなど一部の非OPEC産油国が日量60万バレル弱の減産で足並みをそろえるとの姿勢を打ち出したため。この結果、世界の原油相場は上昇気味で、代表的油種は1バレル50ドル前後の推移となっている。20ドルにまで落ちるといわれた一時期と比べれば大分“弱気”が消えてきたし、むしろ上を見る専門家が増えている。

もっとも、このまま原油価格が上がり続けると見る向きは少ない。それは原油価格が上がれば新たな供給源が勢いを増すからだ。それは米国を中心に生産力を高めているシェールオイル業者。採算点は1バレル50~60ドルとされるが、技術革新の中でその採算点は下がっている。とはいえ、さすがに原油相場が30ドル前後の時には、シェールオイル業者は耐えるしかなかった。事実いくつかの業者は倒産した。しかし原油価格が60ドル、70ドルとなれば彼らは元気づき、その結果シェールオイルの生産は増加する。

ということは、2017年以降の原油価格は今までの底をはう状態から抜け出し、消費者にとってもそれほど負担にならないレベルで安定するということだ。原油価格が急落する前のように1バレル120ドルといった相場も無い。その先行きがあればこそ、最近の石油価格の上昇は、株式市場からは世界経済が安定するという予想から好材料と受け取られ、OPECが減産合意した時にも、ロシアなどがそれに加わると発表した時も株価は上げた。過去数年間には無かったことだ。

2017年を展望する上では、市場経済・グローバリズムなどの従来主流の経済思潮がどう変更されるかも重要なテーマだ。既にこの問題は何回も取り上げた。受益したと考える人が有権者の中で少ないのだ。ではどうするのかには単一の答えが無い。まだ模索中だ。来年は欧州で大きな選挙がオランダ、フランス、そしてドイツと既に予定されており、イタリアもあるかも知れない。戦後経済思潮の有効性が問われることになる。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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