1. 金融そもそも講座

第169回 各国経済の強さと弱さ PART37(韓国編)
韓国に期待する三条件 ── 経済民主化・立ち位置の明確化・“脱”日本

韓国編の最終回だ。見てきたように韓国が抱える問題は、経済、社会、外交と根深く、数多い。しかし筆者はいつも「韓国、頑張れ!」と思っている。日本の隣国である韓国が、最近は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)までも発射して北東アジア全体にとっての脅威となった北朝鮮と対峙している中で、弱体化してよいわけはない。韓国は強い民主国家の仲間であってもらわねばならない。また中国が巨大化・強権化する中で、民主主義・市場経済という価値観を共有する韓国とは、日本は力を携えていかねばならない。そのためには我々は韓国に何を期待すればよいのだろうか。

経済民主化

経済の分野では何よりも「経済民主化の推進」だろう。それがなければ韓国経済は脆弱性を抱えたままで底力が付かないし、将来への展望も開けない。日本では聞き慣れない経済民主化とは、韓国では具体的に「各種格差の解消、特に大企業と中小企業間の格差解消」を指す。日本にない言葉が登場するほどに経済が財閥支配でゆがんでいることを示している。そこからさらに「大企業たたき」までも意味するケースもある(この問題については「財閥に対する憧れと反発」の回でも取り上げた)

この言葉が韓国で生まれたのは80年代半ばだといわれる。言葉の意味は変遷しているが、今の朴政権になって明確な「政府の目標」になった。朴槿恵(パク・クネ)大統領は就任演説で経済分野に三つの目標を掲げた。

  • 1.科学技術とIT産業を軸にした創造経済
  • 2.経済民主化への取り組み
  • 3.国民の幸福を追求、福祉・教育の充実

では任期半ばをはるかに過ぎた現在、それらは前進しているのか。どうひいき目に見てもほとんど進展していないのが実情だ。創造経済が進んでいたら、今のように日本と中国の産業に挟撃されることはなかっただろうし、国民の幸福を追求、福祉・教育の充実が出来ていれば「ヘル韓国」などという言葉が登場することもなかっただろう。

筆者は創造経済も国民の幸福・福祉と教育の充実も、大きな鍵は経済民主化ができるかどうかだと考える。なぜなら財閥が韓国経済を支配している今の状況が打破されれば、韓国経済には創造力が生まれてくるだろうし、自動車や半導体などごく一部の業種で経済が成り立つような状況から脱して、多様な産業を育むことができるはずだからだ。

朴大統領は「公正な市場秩序が確立されてこそ国民全てが希望を持って汗を流して働ける」「中小企業育成政策を展開し、大企業と中小企業が共存共栄できるようにすることが、私の追求する経済の重要な目標」と述べていた。それを成し遂げ、日本のような優秀で分厚い中小企業群を育てて初めて、韓国は強靱な経済力を持つ国になると思う。

スタンディングの明確化

国際的立ち位置の問題として韓国が重要なのは、自らを「西側陣営の一員、日米韓同盟の重要な一環」としての立場を再確認することだろう。THAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)を巡って中国と厳しい対立関係になっていることは前回取り上げた。北朝鮮も韓国への脅迫を止めてはいない。

そうした中にあって韓国として重要なのは立ち位置の鮮明化だ。THAADの問題とは別に、中国は体制として徐々にその綻びを顕在化させている。外交的孤立化も進む。いまだ開発途上の国力を顧みず、南シナ海や東シナ海問題で諸外国と対峙している。恐らく中国国内の権力闘争の外部噴出という形なのだろう。国民がトップを選出するシステムさえない中国は、その陣営に韓国が入るには危険が過ぎる。

韓国は「中国が自国にとって最大の貿易相手国であるという事情を無視できない」と考えているのかもしれない。しかし中国は製品・部品のレベルがかなり上がってきたといっても、依然として韓国経済とは強い相互依存関係の中にある。日中の経済関係も同じだ。お互いの国を必要としている。その証拠に、THAADへの姿勢で不満を持っても中国が韓国に対してできることは「韓流の抑制」、具体的には韓流の舞台の中止、韓流ドラマの一部中国からの追放、程度だ。

領有権問題で国際的孤立を強める中で、中国は今まで冷淡にしてきた北朝鮮との関係を見直す動きを見せている。孤立した者同士が連携を作ろうという常に見られる動きだ。しかし中国と北朝鮮の関係強化の中で、韓国の中国接近で良い状況が生まれるとは思えない。韓国が取らねばならないスタンスは、日米など西側陣営とより強力な隊列を組むということだろう。それ以外に韓国が歩むべき道はない。

そして“脱”日本

筆者は世界の新聞を読む中で、韓国の新聞にも目を通している。韓国語は分からないが、「朝鮮日報」「中央日報」「東亜日報」など韓国の主要紙はそれぞれ日本語サイトをもっているので、韓国のニュースや論調を読める。その中でいつも思うことがある。それは「なぜこれほど日本への関心が高いのか、日本にこだわるのか」「なぜ日本との比較で自分の国を見るのか」ということだ。

これら新聞の記事は、例外なく何事においても自分の国をことさら日本と比べる。この文章を書いているのはリオ・オリンピックが閉幕した直後だが、朝鮮日報の「リオ五輪:総合8位の韓国、金メダルはアテネ以来の1ケタ」という記事には「韓国の今大会、金メダル10個以上、10位以内という目標は『半分の成功』に終わった。2004年のアテネ以来、3大会ぶりに日本(金12、銀8、銅21)にメダルランキングで負け、アジアでは中国、日本に続き3位となった」といった文章が見える。日本では韓国とのメダル数を比較する記事は、筆者は目にしていない。

これは文中の記述だったが、通常は見出しで「日本」の二文字を見ることが非常に多い。時には「日本に見習え」と言い、時には「日本の失われた10年を繰り返すな」と主張し、慰安婦などの問題ではしばしば「日本は歴史を無視している」と非難する。韓国の人々の頭には明けても暮れても日本が染みついているのではないかという気さえする。韓国はなぜ日本の事ばかり気にするのかというのは米国でも強くある見方で、韓国があまりに日本を意識するために三カ国(日米韓)の協力体制構築がうまく進まないとの意見もあるほどだ。

恐らくそれは、朝鮮半島が日本の植民地だった歴史や日本より朝鮮の方が進んだ国だとの古代からある認識などの反映なのだろう。しかし筆者は「日本はその発展を図る過程でずっと世界の国々を見てきた」「世界を見たが故に発展したし、今の地位がある」との見方だ。韓国が世界を見ていないとは言わない。しかし今のように、もっぱら日本との比較で自分の国を見るという姿勢が変わらないと、韓国は本当の意味で大きな存在感を示せる国にはならないだろうと思う。つまり過剰な対日意識からの脱却が必要だ。

今の世界の投資家の対韓投資のスタンスは、個々の韓国企業の中にめぼしい材料を探すというものだ。しかし筆者はこれら三条件 ──経済民主化・立ち位置の明確化・“脱”日本── がそろったときには、韓国という国の株式市場が世界から大きな関心を集めると思う。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

バックナンバー2016年へ戻る

目次へ戻る