1. 金融そもそも講座

第161回 各国経済の強さと弱さ PART32(中国編)
中国で商売をするためには、どんな戦略を採るべきか

中国についての連載の最後は、「では、その中国とどう付き合うべきか」。これは隣国である日本にとって非常に大きな問題だ。体制は違うし、遅れてきた帝国主義国家よろしく領土拡張の意思を隠しもしない。南シナ海での行いを見れば明らかだ。とにかく内政と外交・軍事がからみあって、彼の国で何が起こるのか今後政治や経済がどう展開するかなかなか見通しがきかない。社会情勢も不安定だ。しかし13億という人口の塊は、世界のどの国・企業にとっても魅力的であり、中国を無視できない国にしている。日本はその中国と海を挟んで、引っ越しができない隣国だ。中国と付き合うには我慢も経験も知恵も要る。

中国人も悩んでいる

いつも思うのだが中国を考える視点として一つ重要なのは、中国人自身が今の体制が万全だとは思っていないという点だ。私が知っている中国人はかなりの割合で「中国は世界の国々の多くが採用し、理想的である民主政治もできてない。指導者を選ぶ選挙もない」ということに関して多少の後ろめたさを持っている。現体制批判につながるような事件を取り上げただけで社会の安定を脅かすという名目によって、言論人や弁護士さえ簡単に拘束・逮捕される国が、良い国だと思っている人は少ない。腐敗への怒りも大きい。習近平政権は撲滅に動いているが、そこには権力闘争の臭いの方が強く、中国人はそれも見抜いている。

私の知っている中国人の何人かは、中国を捨て日本や米国に国籍を移しており、「もう、あの国は駄目でしょう」と言う。その言葉の裏には我々日本人が想像する以上に深い意味があるように思える。その長い歴史の中でいくつもの王朝を見てきた中国人は、今はたまたま共産党が王朝を形成しているくらいにしか思っておらず、相変わらず信じるのは同郷の人や一族、つまり仲間だ。それは国家に裏切られてきた歴史を持つ民族の特徴だ。

しかし戦後の共産党は、確かに社会の安定と経済成長をもたらしてくれた。多くの中国人がそれならいいと考えているのも無理はない。だからいつになるか分からないが、やっぱり共産党では駄目だと中国の人々が考える時が来るかもしれない。経済成長をもたらせなくなったり、健康重視の中国人が無視できないほど環境悪化・食品問題が起きたり、権力が見過ごせない腐敗を引き起こした時だ。少子高齢化の中で中国が足早に老いた国になることも考慮に入れておいた方がよい。今後、国内の政治力学が大きく変化する可能性があるからだ。しかし正直言って10年後、20年後の中国がどうなっているのか、体制変換が起きているのかを正確に予想するのは難しい。

サイズのみで既に魅力

一つだけはっきりしていることがある。それは日本の10倍の人口を抱えた国、または地域が今後もずっと隣に存在し続けるということだ。しかも今我々が日本で頻繁に目撃しているとおり、急激に購買力を増しており、そうした魅力がある。AIIB(中国主導のアジア・インフラ投資銀行)に参加した大部分の国(欧州を含めて)は、詰まるところこの購買力を念頭に置いている。ただ、それが米国や日本の想定したアジアの秩序の枠を越えてしまった。中国共産党の支配が終わったときに中国は7つぐらいに分裂し、それぞれ別の国家になるのではないかとの見方もある。当然真っ先にチベットと新疆ウイグル自治区は離れるだろう。

しかしそれでも、今中国が統治している広大な地域に13億の民が住み続ける事情に変化はない。そしてその1~2割ほどは非常に豊かな消費者であり続ける。中国共産党がどうなってもいいが、そのときには何年も続くような戦乱が起きてもおかしくない。それは世界経済にとって「中国の需要が減退した」というレベルではなく、とてつもなく大きな危機となるだろう。中国には変わってもらうにしても、できるだけ平和的に変わってほしい。

日本そして日本企業には、間合いを取りながらこの隣の大きな国と付き合う以外に道はない。景気悪化に見舞われているにしても、市場としてはあまりにも魅力的だからだ。むろん先進国に比べて貧しい層は多いし、それが将来の経済・政治危機につながる可能性はあるが、だからといってその危機を今から展望することは難しい。重要なことは、消費者として豊かになった中国の人々が我々や先進国の人々とそれほど違ってはいない、ということだ。

彼らは自分が買うものに対して相応のバリューを求め、なによりも安全性を求める。それは一人の消費者として何ら我々と変わることはない。中国の人々が日本などに来て何故爆買いをするかといえば、自国には同質で同じような安全性を誇るものがないからだ。彼らは多少値段が高くても日本の製品を買う。中国の製品が今後短期間に日本と同等、同じような安全品質のものになる可能性は薄いし、一度彼らに染みついた中国製品は安心できないというイメージは簡単には変わらないだろう。とすれば、日本は今まで通り良い製品、安心な製品を作っていけば、中国の消費者は引き続き日本の企業にとっての大きな顧客になる。

合弁の道を選ぶ

中国が労働賃金の安い国であった時には、中国は生産基地であり、そこでできた製品はかなりの部分、他の諸国(例えば日本、米国、欧州)への輸出に回されていた。中国の輸出の多くの部分を、中国に進出した企業の工場からの輸出が占めていた。しかし今はだいぶ事情が違う。中国そのものが巨大な消費市場になってきたのでドイツの自動車メーカーにしろ、アップルにしろ、中国での売り上げが各社の業績に直接響く。日本のメーカーであっても事情は同じである。であるが故に、中国の景況は直ちに世界経済に響く。

では中国で商売をするためには、どんな戦略を採るべきか。全部日本で生産してそれを中国へ輸出するという方法もあろう。しかしそれは好ましくない。なぜなら生産と消費は近い方が良いし、製品が何であるにせよ現地の事情が大事になるからだ。生活習慣の差があるし、使い方も日本人とは違う。そういう事情を現地で調査しながら中国向けの最新製品を作るほうが賢明だろう。今のネット時代には誰もが何が最新かよく知っている。

中国だから格落ちの製品でもよいというのは通用しない。しかし中国の事情に合った製品というのであれば、中国の消費者の支持も集まる。中国進出には具体的に次の様な方法が考えられる。

  • 1.単独進出よりは合弁(特に中国の現地企業との合弁)で、生産・販売のルートを作る
  • 2.特に中国に限らず、本土の事情をよく知っていて人脈もある台湾やシンガポールの中国系企業との合弁を模索する
  • 3.さらには米国や欧州の企業と提携を結んで中国での生産・販売を行う方法も考える

端的に言えばリスク管理だ。中国の習近平政権の汚職撲滅もそうだが権力闘争に絡んでどんな突然の政策変更があるか分からない。しかし、そういうリスクがあっても、今のそして将来の中国は有望なマーケットであり続ける。そこでルートを作りながら、かつリスクを分散しながら中国市場に取り組むのである。日中間には歴史問題や尖閣の問題を含めて複雑な経緯がある。故に突然関係が悪化する危険性がある。そこをこの3つの方法でリスクを分散するのが賢明であると考える。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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