1. 金融そもそも講座

第147回「各国経済の強さと弱さ PART21(欧州編)」

2回飛ばしてしまったが「各国経済の強さと弱さ」の「欧州編 フランス」を続ける。今回で3回目だが、この間ずっと考えていたのは「フランスが置かれている環境の劇的変化」についてだ。筆者がこの国について書いているこの二カ月間だけを見ても、それは明らかである。シリアなどの何十万という難民のほとんどが「最終的目的地として目指したい、定住したい」と言うのはドイツ。対して彼らにも振り向いてもらえないフランス。ドイツのすぐ隣にあるのに。難民問題でのフランスに関する報道は、「列車に潜り込んでドーバー海峡から英国に渡りたい」とカレー(ドーバー海峡沿いの街)に集まった難民達の紹介くらいだ。「通過されるフランス、なぜ?」と筆者は考えた。

魅力に欠けるフランス?

それはドイツ、英国という欧州のライバルに比べて、フランスには難民達にとっての魅力が欠けているからだろう。むろんそれには違和感がある。なぜなら前回も見たように、フランスに来る観光客は人口(6,600万人ほど)をはるかに上回る(8,000万人超)。そしていつかはその数が1億人に達するのではないかとも思えるほど、「魅力的な国」だからだ。

この差はどうしてなのか。それは難民達が今現在のその国のスタンス(対難民への)、経済情勢、社会情勢」のみならず、フランスの将来を見ているからだろう。フランスには難民受け入れに反対する極右国民戦線のマリーヌ・ル・ペンという政治家もいて、この手の政治勢力が将来フランスの政治を大きく動かす可能性がある。観光客にはそれは関係ない。素晴らしいフランスの過去があり、加えて魅力的な今のフランスの文化、そして食事があればOKだ。

対するドイツ。今国を率いるメルケル首相は難民受け入れに極めて積極的だ。故に難民達から“母”と呼ばれる。またドイツ経済そのものが人手不足で、難民受け入れに積極的にならざるを得ない。さらに難民受け入れのシステムが整っているという事情がドイツにはある。

ドイツにも難民排斥の動きはある。しかしそれが政治勢力を形成しているということはない。あくまで街の一部の人達の反応にとどまっている。現実に難民を必要とするドイツと、失業率が高く、政治的・社会的に難民受け入れに消極的と映るフランス。難民達がフランスを選ばない理由は明らかだ。

そういえば最近フランスから大きく報じられたニュースも「同国の雇用情勢の厳しさ」をうかがわせる。フランスを代表する企業の一つであるエール・フランスが2,000人強の人員解雇をしようとしたら、同社幹部が組合員に取り囲まれて背広をずたずたに破られたという事件。何がきっかけとなったのかは分からないが、難民達が二の足を踏む理由はある。

変わる原発政策

「劇的変化」ということでいうなら、フランスは原発政策では大きな方針転換の最中にある。フランスは先進国の中で原発先進国だ。なぜそうなったのか。それは「ド・ゴール主義(ゴーリスム)」に遡る。ド・ゴール主義とは、外国に依存することなくフランスの独立を守るという考えを指す。エネルギーでもそれを目指した。しかしフランスには炭鉱はあっても油田は見つからなかった。そこで目を付けたのが原子力発電だった。原子力に関しては、フランスには放射線の研究で有名なマリー・キューリー夫人以来の技術、そして知識の集積もあった。

今のフランスでは、原子力は国の電力需要の四分の三、75%をまかない、総発電容量は63GW(ギガワット)に上る。またフランスは 原子炉の設計から核燃料の再処理に至るまで、原子力技術の分野でも世界をリードしてきている。特にサルコジ前大統領は原発推進派として知られ、各国への原発売り込みに熱心だった。

しかし福島第一原発の事故と、それを契機とするドイツの脱原発政策の影響から、フランスでもエネルギー政策の転換を求める国民の声が高まった。これを政治的追い風としたのが現在のオランド大統領だ。同大統領は再生可能エネルギーの熱心な支持者として選挙期間中に「2025年までのフランスの原発依存度の50%への引き下げ」を公約した。つまり今の75%の原発依存度を50%にまで下げるというわけだ。

ドイツの「究極的には原発依存度をゼロまで持って行く」という目標に比べれば、オランド大統領の目標は見劣りする。しかし今まで世界で最も原発推進の先頭に立ち、事実国内の電力需要の75%を原発に依存し、時にドイツなどに電力を売った経験のあるフランスとしては劇的変化と呼べるものだ。ただし議会野党の脱原発への消極的な姿勢もあって、オランド政権は目標達成への具体的な動きを取れずにいる。

世界経済にとって一つのモデル

もっともこうした大きな変化があるにも関わらず、フランス経済には大きな落ち込みもなく、妙な安定感があることも確かだ。それがフランス経済の強さだともいえる。日本の外務省の各国解説の中で、フランス経済に関する説明の中で最初に出てくるのは「仏経済は概して内需主導で、緩やかな成長が特徴」という表現。これは当たっている。その直後に「一方、慢性的な雇用問題を抱える。租税・社会保障負担率の高さや、各種規制の強さも仏経済の特徴」とある。同国経済の特徴を端的によく表していると思う。

フランスには世界的に知られた企業も多い。製造業では「エアバス」(航空機)、「ダッソー」(複合企業)などが有名で、物流の「カルフール」は日本でもおなじみだ。ファッションでは「シャネル」「クリスチャン・ディオール」「ルイ・ヴィトン」「エルメス」「ラコステ」などは説明不要だろう。食品では「ダノン」「フロマジェリーベル」などがある。保険の「アクサ」、化粧品の「ロレアル」などもある。

これらの会社は当然ながら、フランス経済のみに依存しているということはない。米国やドイツ、それに日本の企業と同じく、世界をマーケットに商売している。フランス経済が高失業率を抱えていても、それぞれの企業の相手は世界であって成長余地はあるし、そういう意味では投資妙味のある銘柄もあるだろう。

筆者が一つ思うのは、確かにフランスは経済も外交もかつての鮮やかさを失ってはいるが、「それはそれで世界にとっての一つのモデルかもしれない」という点。米国のように自由で格差が大きな社会は、明日どうなっているか分からないという不安定感がある。しかしフランスのように規制も残っているし、あまり大きな変化を好まない社会・経済は、それはそれで安定している。今回のような「各国経済の強さと弱さ」といった形で特集すると物足りないのがフランスという国だ。しかしそれは世界各国にとっては一つの選びうるモデルではあると思う。

次回からはいよいよ日本の周辺の国を取り上げたい。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から1ヵ月程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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