1. 金融そもそも講座

第143回「各国経済の強さと弱さ PART19(欧州編)」フランス : 人口を超える観光客 / 揺れる国

欧州で今、奇妙な形で注目を集めている国がある。「欧州で一頭地抜けつつある巨人」ドイツと、そのドイツを目の敵とする「弱小で落ちこぼれの国」ギリシャの“中間”に位置するフランスだ。立場も考え方も中間のフランスは、最近は常に両国の間に立ち、二つの国を仲介することに役割を見いだす。しかしそのことで、蜜月だったオランド・フランスとメルケル・ドイツとの関係は冷えつつある。フランスの経済力は無論のことギリシャよりは強大だが、しかしドイツほどではなく、その株価指数(CAC指数)も世界から注目されることはあまりない。国内経済も厳しい。失業者数は減らず、畜産農家による主要道路の封鎖や国外品排斥運動が大きな混乱を招いている。今週からこの「不思議の国」フランスを取り上げる。

ゴミだらけのパリ

フランスといえば、最近伝わってくるニュースは明るくない。何よりも旅行で行った人たちの評判が悪い。「有名な観光地でも道にはゴミが数多く落ちていて汚いし、畜産農家の大型トラクターによる主要道路の封鎖でモンサンミシェルに近づけなかった」といった不満が筆者の耳にも聞こえてくる。

筆者は最近あまりフランスには行っておらず、もっぱら南欧を旅することが多いのだが、フランスにはずっと関心を払っている。その中で今思っているのは、「過去の評判や評価とは少しずつ齟齬(そご)し始めた国なのかな」という印象だ。なぜか。

国際政治・外交の世界ではフランスは間違いなく“大国”である。日本がなりたくてもなれない国連安全保障理事会の常任理事国だし、何か世界で大きな事件が起きれば「どちらに付くのか」といった意味合いもあって、フランスの姿勢が注目される。大統領の発言は時に世界を先導し、そして動かしてきた。

しかし、一方で米国やロシア、それに中国ほどの大国ではない。核保有国ではあるが、フランスの人口は6632万人(2015年1月1日、仏国立統計経済研究所)であって、億の単位にはとうてい届かない。その意味ではフランスは英国と似ている。

経済でみると、その立場は一段と微妙になる。隣国であるドイツとの格差が開くばかりなのだ。ドイツほどに世界という舞台で通用する企業の数があるわけでもないので、世界経済が危機に見舞われると立ち直るのに時間がかかる。エンジンが少ないからだ。

リーマンショック後の危機にあっても、ドイツが労働市場の自由化にかじを切って再生したのに対して、労組や各種産業団体の力が強いフランスはむしろ経済に対する国の関与を増やしているくらいだ。

人口を超える観光客

フランスが不思議なのは、国としての全体的なパワーは保っているように見えることだ。世界の注目度が落ちることはない。その一つの表象は、この国を訪れる観光客の数だ。日本への観光客数は年間1000万人を超え、2000万人近くになるかも知れないというレベルだが、フランスは世界でも桁が外れている。この国を年間で訪れる観光客の数は、何と人口を軽く上回り8000万人を超えるのだ。

それはやはり伝統と文化、そして食べ物に魅力があるからだし、米国の独立と相前後して18世紀末に王政を打破する市民革命を成し遂げ、今の先進国共通の政治システムのモデルになったという輝かしい歴史があるからだろう。筆者は欧州ではイタリアが各都市に強い個性があって面白いと思うが、今でも日本で欧州の一番人気はフランスのようだ。

そういえばイタリアとフランスとの関係で、一つ面白い歴史を聞いた。それは料理に関して。イタリア旅行でのことだが、フィレンツェの人たちが盛んに強調したことがある。読者の方々は世界の三大料理をご存じだろう。伝統的にはフランス・中国・トルコの料理といわれている。これにフィレンツェの人たちが怒っていた。それはフランスの今の料理の源流は、もともとは1500年代の前半にフィレンツェを支配していたメディチ家の娘であるカテリーナ・デ・メディチが、後にフランス国王になるアンリ2世に嫁いだ時に「フランスにはおいしいものがないから」とイタリアから料理人を連れて行ったことだ、と言うのだ。

つまり、今や世界にとどろくフランス料理だが、「もともとはイタリアのものだ」とフィレンツェの人たちは強調していたのだ。その話しが筆者にとって興味深かったのは、今も世界に大きな影響力を持つ欧州のパワー、魅力というのは、実は欧州各国間、各民族間の複雑な貸し借りの中から生じているのではないか、ということだ。

欧州という一つのエリアには、国境を接して多くの国がある。それらの国がそれぞれ何かを貸し、何かを借りて……ということを繰り返している。フランスがイタリアから料理人を受け入れた(借りた)ことでフランス料理を確立したように、イタリアも何かしらフランスから借りがあるだろう。ドイツもフランスから借りをつくり、そしてドイツはギリシャにお金を貸す。こうした貸し借りによってつながっている欧州の中で、他国との多様なつながりという意味でも、またそれをより可能にする地理的条件においてもフランスは要の国なのだ。それがフランスの運命であり、かつ魅力なのだと思う。

揺れる国

貸し借りの世界にあっても、そのプレーヤー間のバランスというのは微妙に変化し続けるものだ。例えばフランスとドイツの戦後の関係を見ると、前者は戦勝国、後者は敗戦国であり、政治・外交における地位の差は安保理の常任理事国か否かに端的に表れている。だからずっとフランスがドイツを先導してきたし、EUという枠組みの中にドイツを組み込んで再び戦争を引き起こすほど強大にならないような仕組み(共通通貨ユーロなど)を考えたのもフランスの側だと考えられる。

しかし皮肉なことに、今フランスは欧州で絶対的に得意だった外交の世界でも、ドイツに主役の地位を奪われようとしている。ドイツのメルケル首相が主役の外交シーン(ウクライナ問題での対ロシアにおけるプーチン大統領との話し合いや、対ギリシャ交渉など)にはフランスのオランド大統領も必ず登場するが、国が持つ力の差(主に経済)故に、どこでも影は薄い。マスコミの取り上げ頻度がそれを如実に表す。「彼は何もしない人だ」という大統領の元事実婚相手の指摘が的を射ているかどうかは知らないが、世界の大国としてのフランスの地位は、ドイツの台頭によって危うくなっているようにも見える。

考えてみれば、フランスはバランスを取れる国である。しかし逆の見方としては「バランスしか取れない国」でもある。ドイツのインダストリー4.0のような特筆すべき産業政策はなく、困ったら国の関与を増やす程度の政策しか取れないのだ。ギリシャ問題では、借りた金は返せという一貫した姿勢が強圧的に見えるドイツに風当たりが強い。とはいえギリシャのそんなに貸す方が悪いと言わんばかりの姿勢はとても支持できないし、その中間に立つフランスの立場は実は極めて曖昧だ。

次回からそんな「揺れる国」フランスを取り上げる。(

ご注意:本コラムは、上記掲載日から1ヵ月程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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