1. 金融そもそも講座

第104回「そして2014年へ」

早いもので今年ももう少しで終わろうとしている。2013年最後の原稿を出張中の上海で書いている。当地はPM2.5の計測値が高くて空気が悪い日が多いようだが、2日連続の雨で空は比較的きれいだ。外灘(ワイタン)からプートンの夜景もきれいに見える。私は3日ほどの滞在だが、ずっと生活している人にとって空気が悪い日が多いのは大変だと思う。成長する世界の都市経済の一角で例外的に起きている現象だ。2013年は経済やマーケットにとってどんな年で、2014年はどうなるのか。上海から回顧、展望してみたい。

都市とその他

日本に伝わってくる中国経済関連の報道はつい最近まで「成長率の鈍化」だった。確かに政府から発表されている数字はそうだ。成長率は7%台である。しかし上海という人口3000万に近い大都市の空気(雰囲気という意味)を吸うと、体感的にはこの商業都市の成長はすざましいと思うし、実際にこの都市の成長率は全国平均よりはるかに高いだろう。プートンの高層ビルもさらに増えていて、最高層ビルも「金茂」(ジンマオタワー/88階建て)から「上海環球金融中心」(通称:上海ヒルズ/101階建て)に移った後、今は「上海中心」(上海タワー)が128階建てとして建設中(2015年完成予定)だ。この三つが狭いところに林立しているのだから、その迫力たるやすさまじい。

新しくなっているのはビルばかりではない。上海を走る車は毎年大きくきれいになっている。日本のような軽自動車がない分、道には大型車があふれかえっている。一時多かった自転車は影を潜め、バイクにリアカーを引かせている人もめっきり見ない。世界中の都市が同じようになることは好ましいとは思わないが、世界のブランドが店を連ねる巨大なモールも出来上がっていた。しかしそれはサンパウロやイスタンブールでも同じことだろう。今の世界経済にはけん引する部分(地域)と、そこから置いていかれている部分(地域)がある。「全国の中で東京の一人勝ち」といわれる日本も、「膨張する都市」の代表として例外ではない。

重要なのは、相対的に成長から取り残されている部分(地域)はあるものの、世界各国で経済をけん引する部分(地域)が主に中核となる大都市に生まれてきていることだと思う。ミャンマーのヤンゴンについては以前、3回シリーズで取り上げた。確かに世界的な富の集積が都市中心に進行しているのは問題がある。しかしそれは経済活動のベロシティ(回転速度)が都市で高いことを考えれば、ある程度やむを得ない面がある。取引が回転すればするほど、一般的には利益が生まれる。田舎では経済の回転速度は遅い。日本ではお米はほとんどの地域で年に一回しか収穫できない。しかし都会では、人、モノ、カネがせわしなく回転し、それが“利”を生む。上海にいるとそう思う。それは世界中の都市で起きていることだろう。

ベロシティ

世界経済の巡航速度(経済成長ペース)はトータルでは落ちているように見えるが、世界中の大都市の「経済活動のベロシティ」は一段と上がっている。恐らく世界中の都市での地価上昇気配は、この経済活動におけるベロシティの高さ故だ。2013年は、「経済はあまり力強くなかった」と総括される中でも(だからこそ世界的な金融緩和状態が生まれている)、振り返れば局地的なホットスポットが都市経済でいくつも生まれた年だったように思う。経済のベロシティが高ければ、世界的な金融緩和を敏感に受け止めることができる。日本の株式市場でも、“踊る株”が次々と出現した。

2014年もQE3(量的金融緩和)の緩やかな縮小が進む中で、米国は金利面を中心に“超”緩和基調の金融政策が継続されるだろう。そして日本を含めた他の主要国の金融緩和状態の継続の中で、都市での経済活動全般の高いベロシティ部分(ITとか金融とかゲームとか……)の拡張は続くのではないか。

そしてそれが、ベロシティの低い部分(地域)との格差を一層際立たせることになるだろう。その“際立ち”が良いことだとは思わないが、今の各国の政治体制ではそれを是正できない。ローマ法王が批判をしても大きな流れは変わらないだろう。なぜなら「市場経済」に代わるベターな経済システムはまだ考案されていないからだ。

こうした中で、BRICSにその座を奪われ、今までの数年間は世界経済の成長コアと見られてこなかった先進国グループが、成熟した都市を数多く抱えるが故に、世界経済の成長を引っ張る可能性が高いと思う。都市が経済活動を先導する事情が強まると考えられるからだ。先進国を国別に見れば、まず米国の経済成長が2013年の後半にかけてしっかりしてきたこと、そして遅れて日本がアベノミクスの成果もあって成長力を高めていること、さらに危機後の身を切る改革によって欧州もドイツを中心に復活への胎動を始めたことが指摘できる。ほぼ例外なく、まず大都市が活性化した。

成長率という観点で見ると、途上国の方が絶対値は高い。しかし、先進国の経済規模が圧倒的に途上国より大きいことを勘案すれば、少しでも高くなる先進国の成長の方がより多くの富を生み出して世界経済を引っ張る可能性が高い。先進国は財政政策が全般的に行き詰まってはいるが、その代わりに「金融」を中心に産業政策を含めて政策を総動員している。

中進国の壁

成長率を落としてきた途上国が2014年に抱える最大の問題は、「中進国の壁」を打ち破る改革路線にしっかりと舵(かじ)を切れるかどうかだろう。これは特に、経済はマーケットを重視、政治は中央集権的社会主義の傾向を強める中国が、今の「世界の工場」のステータスから脱皮できるかにかかっていると思う。労働賃金が明らかに南の周辺国(ミャンマーやバングラデシュなど)より高くなった中国が経済のモメンタムを保つためには、今までの「安い労働力がウリ」の状態を脱し、ブランドを育て、その品質や高い性能で世界市場において勝負することが必要だ。そうしないと一段上の経済に移行できない。

それは先進国の地位(例えば日本のそれ)をジワジワと脅かすかもしれないが、私が上海にて思うのはそこで初めて“価値ある競争”が生まれて、新たな需要を生む製品が出てくる素地ができるということだ。しかし中進国の壁の打破とは既存のシステムの破壊であり、そこには大きな抵抗勢力がある。中国を含め多くの途上国はこの課題を乗り越えるのが、相当難しいと考えられる。

2014年は先進国にとっては「成長加速」が、途上国にとっては「経済システムの改善」が課題となる。それに進展の兆しがあれば、世界のマーケットは力強く展開することができると思う。

それでは皆様、よい年末年始をお迎えください。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から1ヵ月程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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