1. いま聞きたいQ&A
Q

「シェール革命」について教えてください。(前編)

原油は100年後、天然ガスは250年後まで回収可能に

砂より小さい粒や粘土からなる黒っぽい泥岩(でいがん)の一種を、頁岩(けつがん=シェール)といいます。頁岩層の岩盤にできた微細な隙間には天然ガスと原油が閉じ込められており、それぞれ「シェールガス」「シェールオイル」と呼ばれています。これらの存在はかなり以前から知られていましたが、地下2,000~3,000メートルの深部にある頁岩を破砕しないと取り出せないため、ほんの数年前までは技術的にもコスト的にも採掘は不可能とされてきました。

ところが2000年代の半ば以降、米国の石油開発企業が「水平掘り」や「水圧破砕」などの画期的な技術を相次いで確立し、米国内でシェールガスとシェールオイルの商業生産が可能となりました。EIA(米エネルギー情報局)によると、シェールガスは米国だけでなく中国やアルゼンチン、メキシコ、南アフリカなど、世界の広い範囲に豊富な埋蔵が確認されています。シェールガスが存在する場所にはシェールオイルも並存するため、計算上は人類が利用できる化石燃料の量が飛躍的に増えることとなります。

IEA(国際エネルギー機関)では、原油が従来の40年から100年まで、天然ガスが従来の60年から250年まで、それぞれ回収可能年数が伸びると予測しています。こうしたエネルギー資源としての可能性や期待の大きさが、“シェール革命”と呼ばれる所以(ゆえん)です。

シェール革命の恩恵をまず受けるのは、もちろん世界に先んじて商業生産を開始した米国です。米国は現在、世界最大の原油・天然ガス消費国であり、国内消費量のうち原油については4割超、天然ガスについては1割弱を輸入に頼っていますが、今後はその状況が大きく変わりそうです。IEAによると、米国は2015年にロシアを抜いて世界最大の天然ガス産出国となり、2017年にはサウジアラビアを抜いて世界最大の産油国となる見通しです。さらに、2035年にも米国がエネルギー資源の純輸出国になると予測しています。

こうした「エネルギー自立」は米国にとって貿易収支の改善につながります。例えば、米国では2012年の原油輸入量が前年比6.9%減の30億9,422万バレルでした。これは原油輸入量として15年ぶりの低水準にあたります。貿易赤字全体に占める石油輸入の比率も5割を切り、米国の貿易赤字は3年ぶりに減少することとなりました。シェール革命によって今後も貿易赤字の縮小傾向が続けば、経常赤字が解消されて、長期的にドルの上昇要因になることが予想されます。

米国に特有の諸条件がシェール革命を後押しした

シェール革命が製造業の再生や新たな雇用創出をもたらすというメリットもあります。米国では2006年に単位あたり9ドルを超えていた天然ガス価格が、最近では3ドル前後まで低下しました。アジアの5分の1以下というエネルギーのコスト競争力を生かして、化学業界や鉄鋼業界では大型の設備投資や新型製法の導入に向けた動きが急速に広がっています。米国の製造業が国内回帰を強く意識し始めたわけです。

ある試算によれば、シェールガス・オイルの増産によってこれまでに直接、間接に生み出された米国内の雇用は170万人に達する模様です。米調査会社IHSでは、シェール革命による雇用創出が2020年までに合計で300万人に及ぶと試算しています。オバマ大統領もエネルギー政策の軸足を、1期目に掲げた太陽光や風力などの再生可能エネルギーから、すでにシェールへと切り替えました。

シェールガスの埋蔵量では世界最大と目される中国および南米や東欧などの国・地域でも、米国に続けとばかりにシェールガスの探査や試掘が進められています。しかし、米国のように商業生産を軌道に乗せるまでには、かなりの時間がかかりそうです。

米国でシェール革命が起きたのは、それ相応の特殊な条件が米国にそろっていたからです。例えば米国では、土地所有者に地下資源を開発する権利が与えられており、土地所有者がシェールガスの開発業者に権利を譲渡して一定の報酬を得るという「開発誘因」が働きます。こうした土地の所有形態は米国に特有なもので、日本や欧州など世界の多くの国では、地下資源を開発する権利は国が管理しています。ほかにも、全米ガスパイプライン網というガス流通のインフラが整っていたことや、水圧破砕に必要な大量の水が調達できたことなどが米国のシェール革命を後押ししました。

シェール革命は当面は米国の独壇場といった様相ですが、いきなり出現した新たな巨大資源国の存在は、国際的な資源流通の在り方や資源価格、安全保障の構図などを大きく変えようとしています。その影響は当然のことながら、世界最大のLNG(液化天然ガス)輸入国である日本にも及びます。次回は引き続き、シェール革命が日本および世界にもたらす影響を中心に考えてみようと思います。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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