1. いま聞きたいQ&A
Q

中国で問題になっている「影の銀行」について教えてください。

規制によって失われた金融機能を補完する役割

影の銀行(シャドーバンキング)」について、一般には以下のように説明されています。

  • 中国において、個人や企業などが銀行を介さずに資金をやり取りする金融取引のこと。 代表例として、貸出債権や債券を小口化した「理財商品」や、企業同士が直接資金を貸し借りする「委託融資」などがある

ただし、この説明は正確とはいえません。例えば理財商品には、銀行が発行して国債などで運用する米国のMMF(マネー・マーケット・ファンド)に似たような商品もあれば、銀行は販売窓口になるだけで、実際の組成や運用は信託会社などが行うハイリスクの高利回り商品もあります。いずれにしても、銀行が何らかの形で理財商品に関わり、個人や企業などの投資家が銀行を通じて理財商品を購入するケースは多いわけです。

ポイントは、影の銀行によるそれらの金融取引が国から認められた「正規の形」ではないという点です。中国では中央銀行にあたる中国人民銀行が、銀行の預金金利と貸出金利の双方に規制として限度を設け、銀行に厚い利ザヤを保証しています。例えば1年物の定期預金金利は上限が3.3%で、同じく1年物の貸出金利は下限が4.2%です。

中国では消費者物価指数の上昇率が3%を超えることも多く、結果として実質的なマイナス金利に陥りがちな預金金利の低さに対して、国民は以前から強い不満を抱いていました。そんななか、理財商品が年率5~10%の利回りを期待できる、いわゆる財テク商品として登場し、数年前から投資家の人気を集めています。中国政府の発表では、今年(2013年)3月末時点で理財商品の残高は8兆2,000億元(約130兆円)に達しています。

金利規制に不満や不便を感じていたのは、企業も同様です。銀行は国有の優良企業に対しても4.2%以上という有利な条件で融資を行い、確実に利ザヤを稼ぐことができるため、信用リスクが高くて焦げ付く恐れのある中小零細企業や新興企業にまで、あえて融資を行う必要がありません。その点、金利規制のない影の銀行では市場原理で金利が決まるため、こうした信用リスクの高い企業でも高金利ながら資金の調達が可能になります。

このように、影の銀行には市場原理が働かない銀行の正規ルートに代わって、資金の出し手と借り手を結びつける仲介機能があります。言い換えるならば、影の銀行は中国政府の規制によって失われた、金融の本来的な機能を補完する役割を担っているわけです。

中国は経済大国となった今日でも、規制で手厚く保護された銀行が、低コストで調達した資金を国有企業や地方の開発プロジェクトなどに注ぎ込むという、「発展途上国型」の経済成長モデルに固執しています。影の銀行は、そんな中国における金融システムのゆがみをつく形で、なかば必然的に広がったと言ってもいいでしょう。

信用バブル退治が経済に悪影響を及ぼす懸念も

理財商品の多くは、「地方融資平台」という地方政府傘下の投資会社や地元の不動産開発会社への貸出債権を小口化し、高利回り商品として個人投資家に販売されています。なかには投資先の開発プロジェクトが途中でストップしたことを開示しないまま、新たに同じプロジェクト向けの理財商品を販売するケースや、銀行が元本保証をうたって販売するケースも見られます。

こうした理財商品は金融当局による監視の目が行き届いていない上、デフォルト(債務不履行)になった場合、利害関係者の誰が損失を負担するのか曖昧なのが実情です。また、銀行の中には自ら組成・販売した理財商品の償還資金を確保するために、新たに理財商品を販売するという「自転車操業」に陥っているところもあります。

影の銀行はもはや「信用バブル」の様相を呈しているといっても過言ではありません。事態を重くみた中国政府は、影の銀行への監視・規制を明言し、市場へのマネーサプライ(資金供給)を絞るなど、今年に入って信用バブルの退治に乗り出しました。6月20日に、銀行が互いに資金をやり取りする際の指標となる上海銀行間取引金利の翌日物が13.444%まで急騰したのは、中国人民銀行が金利の上昇傾向を意図的に放置したためと言われています。

習近平氏を国家主席とする中国の新指導部は、景気がある程度減速したとしても、実体経済を反映しないマネーの膨張を抑え、地方を中心とした過度な投資依存からの脱却を目指す構えを打ち出しています。しかしながら、中国経済がここ数年、不透明な金融取引に支えられてきた面もあることは否定できず、影の銀行への介入がどの程度、経済にマイナスの影響を及ぼすのかは読みきれないのが現実です。

それにしても、国の規制が生み出した影の銀行をいま改めて国が規制するというのは、何という皮肉でしょうか。影の銀行の問題は、中国が成長一辺倒の政策を見直し、真の市場経済化へ向けて構造改革を進める時期にきていることの象徴といえるのかもしれません。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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