1. いま聞きたいQ&A
Q

経済の先行きが見通しにくいなか、資産運用では何を心掛ければよいですか?

資産の実質的な価値=購買力の保全を目指す

私たち日本の一般個人にとって、資産運用には厳しい日々が続いています。欧州債務危機の影響により、これまで頼みの綱だった新興国の株式や債券、通貨などもいよいよ調整局面を迎えました。長引く円高に加えて、投資自体から一時的に手を引く「リスクオフ」の動きが広がっていることもあり、世の中には今これといって有望な運用先が見当たらないのが現実です。

ただし、市場はいつも気まぐれに動くものであり、現在のような状況がこれからも未来永劫、続くわけではありません。経済の先行きが見通しにくい時にこそ基本に立ち返って、資産運用の短期的な「戦術」ではなく、むしろ長期的な「戦略」について、いまいちど考え直してみてはどうでしょうか

資産運用の長期戦略として最も重要なのは、運用の目的をはっきりさせることです。多くの人は資産運用の目的について、できるだけ効率的に収益を上げ、少しでも資産を増やすことだと考えているはずです。それは決して間違いではありませんが、大切なポイントがひとつ抜け落ちているかもしれません。増やしたお金は将来どこかで使うということ、すなわち資産の将来的な「購買力」という視点です。

米国を例にとって考えてみましょう。2000年末から2010年末までの10年間に、米国S&P500株価指数の騰落率は配当金込みで約15%のプラスとなりました。この間、米国に住む人がS&P500株価指数に100ドルを投資していたとすると、10年後には115ドルまで増えたことになります。

一方で、同じ10年間に米国の消費者物価指数は約3割の上昇を記録しました。単純計算で物価が平均30%上昇したわけですから、10年後も手持ちのお金の購買力を維持するためには、当初の100ドルは130ドルまで増えていなければなりません。株式投資で資産を15%増やすことができたとしても、購買力という観点からみれば、まだ15%分が足りないわけです。

このように資産運用では、単純に資産の名目額を増やすだけでなく、物価上昇=インフレを考慮した実質的な資産価値にも目を配る必要があります。言い換えれば、いたずらに収益を追求することではなく、将来的な購買力を保全することこそが、資産運用の究極の目的になるのです。

円高は日本人が金を割安に買えるチャンスになる?

日本ではデフレと円高が続いており、これまで購買力の維持や保全について人びとが強く意識することは少なかったと思われます。しかし、少子高齢化や財政赤字などの問題がインフレや円安につながる可能性も十分にあり、私たち日本人にとっても、今から将来の物価上昇に負けない資産運用を意識しておく意味は大きいでしょう。

具体的には、私たちの運用資産の一部に、以下のような形で手を加えることが考えられます。

  • ●インフレ期に値上がりしやすい金融資産を組み込む
  • ●すでに保有している株式や債券などとは値動きが異なる金融資産を組み込む

一般にインフレ期に値上がりしやすいといわれるのは、石油や金鉱、商社などのいわゆる資源関連株、および商品としての金や原油などです。金の値動きには、国内外の株式や債券といった伝統的な運用対象の値動きとの間で、相関性が低いという特徴もあります。また、特に日本株の値動きと相関性が低い金融資産として、為替ヘッジ付きのドル建て新興国債券を挙げることができます。

これらを運用資産に組み込むのは、あくまでも資産全体の価値を長期的に安定させることが狙いであり、それぞれに単体で高い収益性を求めるわけではありません。そのため実際の投資にあたっては、投資比率を運用資産全体の5~10%など一部にとどめ、よほどのことがない限り、将来にわたってずっと保有し続けることが重要です

例えば金の国際価格は、昨年(2011年)9月に1トロイオンスあたり1,900ドル台の史上最高値を付けるなど、世界的な信用不安を背景にここ数年、大きな上昇傾向にあります。一方で、日本では円高の影響を受けるため、金の国内価格は国際価格ほど上昇していません。そのせいか、日本では金を新たに購入する人だけでなく、利益を確定させるために売却する人も目立つようです。

金市場の専門家によれば、円高はむしろ「日本人が世界の投資家よりも金を割安に買えるチャンス」ということになります。資産運用の目的を、単なる収益の追求ではなく将来的な購買力の保全に置いてみると、私たちの金保有に対するスタンスも、ひと味ちがってくるのではないでしょうか。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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