1. いま聞きたいQ&A
Q

中国の人民元切り上げについて分かりやすく教えてください(その2)

7月21日に実施された中国人民元の切り上げについて、前回Q&A「中国の人民元切り上げと通貨バスケット制について教えてください(その1)」と今回の2回にまたがってその内容を説明しています。すでに2%の切り上げが行われてから1カ月近くが経過しましたが、その後の人民元相場には大きな動きはほとんどありません。

切り上げが実施された直後は、最初の3週間のうちに対ドルで0.15%上昇したため、このまま緩やかに人民元相場が上昇するという見方が多数を占めていました。しかし実際には、8月15日に1ドル=8.097元をつけて以来、反対に下落する方向に向かっています。一本調子の人民元上昇は中国当局が望んでおらず、この先1年間くらいは追加の切り上げはない、との見方が早くも出ている様子です。

前回は、(1)人民元の切り上げ問題とは?、(2)通貨バスケット制とは?という点について説明いたしました。今回は、(3)他の国の通貨や経済に与える影響は?、(4)日本企業への影響は?、という点について話を進めてまいります。

(3)他の国の通貨や経済に与える影響は?

この問題は、(ア)中国と日本、(イ)中国と米国、(ウ)中国とアジア諸国、の3つの観点から論じられます。
まず(ア)中国と日本、について。人民元の切り上げが実施された当初は、経済的につながりの深い日本円も、人民元相場の上昇につれて急激な円高になると予想されていました。しかし肝心の人民元が、通貨バスケット制を採用した後もほとんど動いていないため、今のところ円相場に与える影響も非常に限定的なものにとどまっております。

次に(ウ)中国とアジア諸国についてですが、中国の周辺に位置するアジア各国市場は、おしなべて今回の人民元改革を好意的に受け止めています。アジア諸国の多くは、自国の通貨を米国ドルに連動させるドルペッグ制を採用していますが、本心では地理的に近い中国の経済発展に期待する国が多く、いずれはドルペッグ制から解き放たれたいと考えているようです。通貨制度では保守的なマレーシアは、中国が人民元切り上げを発表したわずか45分後に、ドルペッグ制から通貨バスケットによる管理変動相場制に移行しました。

インドネシアのユドヨノ大統領も、人民元切り上げが実施された直後に中国を訪問して、「人民元切り上げはインドネシアから中国への投資拡大へのチャンス」と絶賛しました。中国からインドネシアに対する投資も、石油ガス分野を中心に今後急拡大すると期待されています。そのためには、自国通貨と人民元相場が安定して推移することが何より大切です。

最後に(イ)中国と米国、についてですが、これが今回の人民元改革の本質的な部分です。人民元の問題は、日本と中国との間での関係よりも、米国と中国という関係でとらえられるべきです。

それは日本企業が中国に設立した「中国の日系現地法人」と、同じく米国企業が中国に設立した「中国の米系現地法人」の輸出のうち、それぞれ30%くらいは米国向けの輸出に回っているためです。これらの輸出はいずれも「中国製」となって米国に向かっているため、米国と中国の間で貿易の不均衡が広がっており、これが米国内で新たな経済摩擦を生み出しています。

ウォルマートをはじめとする米国の小売業界は、ここ数年、値段の安い中国製品に依存して業績を伸ばしてきました。それが米国国内で中国からの輸入品の急増につながっており、その結果、中国との間での貿易不均衡(貿易赤字の急増)は今年1~5月に前の年に比べて+33%も増えました。今や対日貿易赤字の2倍にまで膨らんでいます。米国の景気がすこぶる好調で、長期金利も低く抑えられていることから、米国の輸入が拡大しているという背景があります。

しかしこのような一方通行の貿易構造はいつまでも続くものではありません。米国の貿易赤字が急拡大している結果、経常赤字の拡大も止まることを知らず、米国のGDPに占める経常赤字の比率は、昨年の時点で5.7%にまで達しました。この水準は通貨不安をもたらしかねない危険水域の5.0%を大きく上回っており、今年はさらに膨らむことが確実と見られています。

今回の人民元切り上げは、いらだちを隠さない米国からの圧力がかなり働いています。人民元改革が実施されてから1週間ほど経った7月末に、中国人民銀行は人民元の再切り上げを否定する声明を発表しました。これに対して米国の上院議員であるシューマー議員、グラム議員は即座に不満の意を表明し、中国が一段の切り上げに応じない場合は、中国からの輸入品に一律27.5%の報復関税を課す制裁法案を10月にも上院で採決する、と表明しています。

8月は米国の議会が夏休みで休会しているため、今のところ議会サイドの表立った動きは止まっているように見えます。しかし9月中旬以降の休み明けには、再び米国議会からの強行姿勢が出てくるものと考えられます。

同じく米国政府内部からもいらだちの声が上がっています。スノー財務長官は7月末に行われたテレビのインタビューで、「人民元が市場の実勢に合わせて変動幅を拡大しないのなら問題だ」と述べています。さらなる人民元切り上げを求める米国の強い姿勢を示すものとして注目されています。

(4)日本企業への影響は?

今回実施された2%の切り上げ幅では、ほとんど影響はないと言ってもよいでしょう。自動車メーカーやアパレル、食品メーカー、総合商社、機械メーカーなど、人民元の切り上げで経営戦略を大きく変えたという企業はほとんど見られません。

7月21日に人民元切り上げが発表された当初は、人民銀行は1日当たり0.3%の変動幅を容認しました。そのペースで行けば、3カ月後には20%以上の切り上げが起こる可能性もあったのですが、その後の中国当局の動きを見る限りでは、中国は大幅な為替変動を抑制しようと考えているようです。

人民元切り上げ直後に、中国に進出した日系企業で構成される中国日本商会の会員企業587社を対象に行われたアンケート調査では、中国からの輸出にどれくらい影響するかとの問いに、「かなり減少する」と答えた企業は2.6%、「多少減少する」が14.8%、これに対して「軽微」と答えた企業は60.9%にのぼりました。

また、輸出と輸入をトータルで見た場合の経営に対する影響では、「大きい」と「多少は影響する」の合計が28.7%で、「相殺されるので軽微」が40.9%でした。この結果を見る限り、日本企業への影響はほとんどないと言ってもよいでしょう。ただし同時に93.9%の企業が、「人民元はドルに対してさらに切り上がる」と答えています。

また、7月末に行われた日本経済新聞の調査では、今後は「中国からの輸入品の価格が高くなる」と見る回答者が52%にのぼりました。日本が中国から輸入する品目は、衣料品、食料品、音響映像機器の順となっており、スーパーや百円ショップには安い中国製品が数多く並んでいます。企業の価格戦略がどのように変化してゆくのか、これらの品目の価格動向が今後注目されます。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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