1. いま聞きたいQ&A

この記事は2020年2月27日に更新されていますので、こちらをご参照ください。

金融政策の「出口戦略」がなかなか進まない理由を教えてください。
(2020年2月27日)
Q

世界の「出口戦略」はいま、どこまで進んでいるのですか?

金融引き締めを急ぐ新興国

いま世界各国は、経済政策を金融危機に対応するための緊急モードから平時モードに戻す、いわゆる「出口戦略」の実施に乗り出しています。

新興国では、金融政策を緩和から引き締めへとシフトする動きが目立ちます。中国は今年(2010年)の1月と2月に、相次いで預金準備率を引き上げました。預金準備率とは、中央銀行が民間銀行から強制的にあずかる資金の比率のこと。これを引き上げることで、銀行融資の増加ペースを抑え、民間にあふれた資金を吸い上げる効果が期待できます。インドやブラジルでも、今年に入って同様に預金準備率の引き上げに踏み切りました。新興各国では今後、いよいよ政策金利の引き上げが視野に入ってくるものと思われます。

新興国が金融引き締めを通じた出口戦略を急ぐのは、ここにきて景気の過熱感や物価上昇によるインフレへの警戒感、不動産バブルへの懸念などが高まっているからです。その背景には、金融危機後に新興各国が打ち出した景気対策が功を奏したことに加えて、同じく金融緩和策を取ってきた先進国で思うように内需が伸びず、余った資金が新興国へ向かったことの影響もあるようです。

先進国においては、中国向けの資源輸出が好調なオーストラリアが昨年10月から今年4月7日までの間に、すでに5回にわたって利上げを実施し、政策金利が3.00%から4.25%まで上昇しました。ただし、これは先進国の中では例外といえるもので、欧米などは出口戦略を一足飛びには進められないのが現実です。

米国では、FRB(連邦準備理事会)が今年3月18日に金融機関向けの貸出金利にあたる公定歩合を約3年8カ月ぶりに0.25%引き上げ、0.75%としましたが、一方で政策金利は事実上のゼロ金利に据え置きました。欧州でも、ECB(欧州中央銀行)が3月4日に緊急の資金供給策を縮小すると発表したものの、利上げなど本格的な出口戦略の実施にはまだ相当に時間がかかる模様です。

欧米が出口戦略に慎重なのは、雇用情勢や不動産市況などにいまだ本格回復の兆しが見えないうえ、金融機関の不良債権問題も深刻なことから、依然として緩和的な金融環境が必要とされているからです。そのため当面の間は金融緩和によって景気を下支えしながら、もうひとつの経済政策である財政政策の面から出口戦略を模索していくことも考えられます。

日本は反対に追加の金融緩和へ

そんななか、日本だけが逆に出口から遠ざかろうとしています。日銀は3月17日の金融政策決定会合で、追加の金融緩和策を発表しました。内容は、昨年12月に導入した「新型オペ」の資金供給規模を拡充するというもの。新型オペは日銀が金融機関に対して、期間3カ月の資金を政策金利と同じ0.1%という超低金利で貸し出すもので、今回の追加緩和によって資金供給枠が10兆円から20兆円に倍増されます。

すでに日本では長期金利、短期金利、政策金利のいずれもが歴史的に低い水準まで下がっており、追加的な金融緩和による景気押し上げ効果は望み薄といわれています。それでも日銀が追加緩和に踏み切ったのは、民主党政府からの圧力に押し切られたという側面が強いようです。

民主党政府は今夏の参院選を控えて、景気回復やデフレ改善への努力を国民にアピールしたいと同時に、マニフェスト(政権公約)で掲げた諸政策の実現へ向けて、手厚い財政支出を維持する必要があります。しかしながら、すでに国債発行残高が大きく膨らんでいるうえに、税収の落ち込みも続くなかで、これ以上の財政出動は難しいのが実状です。例え効果は限定的でも、景気の下支えやデフレの克服を日銀の金融政策に頼らざるを得ないという事情があるわけです。

新興国、欧米などの先進国、そして日本における出口戦略のタイミングや進捗状況にズレが生じることにより、今後考えられることが2つあります。市場が金利差に着目した結果としての円安の進行と、新興国への資金流入の拡大です

日本企業の業績が徐々に上昇へ向かうなか、円安はさらなる追い風となるため、皮肉にも出口戦略において大きく遅れていることが、日本の景気回復にとってプラスに働くことになるかもしれません。その一方、新興国がバブルの芽を摘むために急ぐ出口戦略が、かえって海外の資金を引き寄せ、図らずもバブルを膨らませてしまう恐れもあります。バブル崩壊のリスクを考えると、景気回復が新興国頼みの欧米や日本にとって、しばらくは悩ましい時間が続きそうです。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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