1. いま聞きたいQ&A

この記事は2020年3月11日に更新されていますので、こちらをご参照ください。

いわゆる「中国リスク」の本質について、どのように考えればいいでしょうか?
(2020年3月11日)
Q

市場で懸念が高まっている「中国リスク」について教えてください。

「世界の工場」としての地位に陰り

日本政府が今年(2012年)9月、沖縄県の尖閣諸島を国有化したのをきっかけに、中国による日本への反発や強硬姿勢が強まっています。日系企業への破壊・略奪行為や日本製品の不買運動、日本からの輸入品に対する通関検査の強化など、影響は政治だけでなく経済にも及んでいます。例えば9月の中国における自動車の販売実績は、日系メーカー7社の合計で19万台弱と、前年同月比で4割超の減少を記録。トヨタ自動車と日産自動車は中国での本格的な減産に踏み切っています。

今回の事態は、いわゆる「中国リスク」(中国にまつわる経済的悪影響)の一端が現れたにすぎません。中国リスクの核心は、景気低迷や不動産バブルの崩壊などによって中国経済が本格的に失速し、世界が「経済のけん引役」を失うことです。このリスクについて市場では以前から懸念が高まっており、領土摩擦の有無にかかわらず、日本も世界もいずれは直面せざるを得ない大きな問題といえます。日本と中国の経済関係が冷え込むことで、中国リスクの表面化が加速されるという新たな懸念も出てきました。

中国では今年4~6月期の実質経済成長率が7.6%と約3年ぶりに8%を下回り、通年ベースでも13年ぶりに8%台を割り込むことが予想されています。成長率が鈍化した大きな要因のひとつとして、欧州債務危機の長期化による欧米向け輸出の落ち込みが挙げられますが、より長期の視点で見ても、輸出の伸び率は2005年以降ほぼ一貫して低下傾向にあります。

日中貿易にも変調が見られます。日中間の輸出入を合計した貿易総額は、リーマン・ショック後の2009年こそ前年比14%減と落ち込んだものの、その後は2010年が30%増、2011年が15%増と拡大していました。ところが、今年は月間の貿易総額が6月から9月まで4カ月連続で縮小(前年同月比)し、1月~9月の累計も前年同期比1.8%の減少となっています。

領土摩擦が長引いて日中貿易がさらに低迷するようだと、電子部品など日本からの部材供給が停滞し、それらの組み立てにかかわる中国製造業の生産や雇用に悪影響がもたらされます。ひいてはそれが、中国経済の減速に追い打ちをかけることにもなりかねません。

中国市場の構造転換にも対応が求められる

外資による工場建設やM&A(合併・買収)などの対中直接投資も、今年1~8月の累計が前年同期比3.4%の減少で、通年でも大幅なマイナスが見込まれています。2007年の18%増や2008年の23%増など、2ケタ増が当たり前だった時代に比べると、海外からの資本流入は急速に細りつつあります。これは、人件費の急激な上昇や人民元高にともなって中国の国際的な価格競争力が低下し、「世界の工場」としての地位に陰りが見えてきたことを意味します

そんななか、日本は円高に対応する狙いもあって昨年、過去最高となる1兆円の対中直接投資を実施。今年1~8月の累計でも前年同期比16%増と、欧米の動きとは逆に中国への直接投資を増やしていました。いわば日本が中国経済を下支えしてきた格好ですが、中国が強硬姿勢を続けるかぎり、今後は投資減少も避けられないでしょう。対中投資を通じて中国との相互依存を深めてきた日本企業にとっては痛手ですが、中国にとっても外資導入で成長を目指す地方経済の停滞や、製造業の高度化など産業構造の転換が遅れるといった悪影響が予想されます。

中国リスクの高まりを受けて、企業が進出先や投資先を中国以外に広げる「チャイナ・プラスワン」の動きが加速していくと考えられます。実際に日本企業の間でも、ASEAN(東南アジア諸国連合)への直接投資を増やすなど、リスク分散の動きはすでに活発化しています。しかし、だからといって世界は中国を無視するわけにいかないでしょう。

中国では今後、国際的な生産・輸出拠点としての優位性が低下する一方で、消費市場としての存在感が増してくると予想されます。現在は日本製品の不買運動もあって消費は一時的に減速していますが、中長期的にみれば、中間所得層の増加によって個人消費の拡大が確実視されているからです。中国リスクの分散を図りながら、こうした中国市場の構造転換に対応していくことが、日本企業のグローバル戦略において大きなテーマになりそうです。

日本にとっては、今回の領土摩擦における中国の強硬姿勢から何を感じ取るかということも重要です。名目のGDP(国内総生産)において中国が日本を抜いたことや、貿易総額に占める国別比率でみた「日本の対中依存度」よりも「中国の対日依存度」が小さいことなど、経済的な立ち位置や必要度の差が日本を軽視するかのような行動につながっているという指摘もあります。その意味では、環境技術や高品質のサービスといった日本の強みを、中国を含めた世界の国々にどこまで理解させられるのか、それによって将来的な日中の経済関係も変わってくると思われます。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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