1. いま聞きたいQ&A
Q

中国で外貨準備高が増えているのは何故ですか?

元相場の安定へ向けた米ドル買いの為替介入

中国の外貨準備高が、今年(2009年)の6月末に初めて2兆ドルの大台を突破しました。
中国の外貨準備高は2006年2月に日本を抜いて世界一の規模となり、同年10月には1兆ドルを超えました。それから2年半あまりの間に、さらに1兆ドルを積み増したことになります。世界第2位である日本の外貨準備高が約1兆ドルに過ぎないのですから、中国での急増ぶりがいかに凄まじいものか分かるでしょう。

ここ数年、中国では貿易黒字が急拡大すると同時に、海外からの投資も大幅に増加しています。中国企業が輸出で得た代金(外貨=おもに米ドル)を国内で自国通貨の「元(人民元)」に戻したり、海外の投資家が中国の株式や不動産などへ投資するために自国通貨を元に換えたりすることは、元相場の上昇につながります。元が高くなると中国の輸出産業にとっては不利なので、中国の中央銀行にあたる中国人民銀行では、「米ドル買い・元売り」の為替介入を繰り返してきました。その結果、急激に米ドル保有高が増えることになったのです。

中国は外貨準備高の約7割を米ドル資産で運用しており、なかでも米国債を大量に購入しています。2008年9月には日本を抜いて世界最大の米国債保有国となり、その後、金融危機が深刻化するなかでも米国債の買い増しを続けてきました。ただし、今年の4月に米国債の保有残高が10カ月ぶりの減少に転じ、6月には単月で9年ぶりとなる大幅減少を記録するなど、「米国債離れ」とも取れる動きも目立ちつつあります。

同じく今年の6月上旬に、中国政府はIMF(国際通貨基金)が発行するSDR(特別引き出し権)建ての債券を、最大で500億ドル購入すると表明しました。SDRは米ドル、ユーロ、円、ポンドの4通貨で構成される合成通貨単位であり、中国にとってIMF債の購入は、外貨準備の運用先となる通貨を米ドル以外にも分散することを意味します。そのほか、中国は外貨準備を使って原油や金などを購入したり、油田開発を進める計画なども検討しており、運用先の多様化へ向けた動きは活発化しています。

米ドル下落で自らも傷つく中国のジレンマ

そんななか、市場関係者のあいだでは、中国が国際通貨体制の見直しを目論んでいるのではないかという声も上がってきました。金融危機による米国経済の低迷が長期化すると、世界の基軸通貨である米ドルの信認が大きく低下する可能性があり、中国はそれを視野に入れて新たな基軸通貨の実現を模索し始めた、というのです。

しかし、これは話が少し大袈裟すぎるのではないでしょうか。SDR建ての債券は市場規模や流動性が限定されており、SDRは基軸通貨には程遠いのが現状です。そもそも中国が外貨準備として保有する米ドル資産はあまりに巨額であり、米ドルが暴落した場合、中国自身が膨大な為替差損を被ることになります。米国債の大量売却は米ドルの急落につながるため、中国は米国債を売りたくても自由には売れないという側面もあるわけです。

中国の当面の関心事はむしろ、「米ドルの安定」だと考えられます。外貨準備運用の多様化へ向けたさまざまな動きは、金融危機後の対応で大規模な財政出動を余儀なくされている米国に、必要以上の米ドル下落を引き起こすことのないよう、牽制球を投げかけたという意味合いが強いようです。

ちなみに、米ドルにはひとつの興味深い特徴があります。世界的な経済危機や社会的混乱が発生すると、その後に「米ドル安」が進むことが多いのです。例えば、2000年のITバブル崩壊から2001年の米同時多発テロへと至る局面では、当初の「米ドル高」を経て、その後は長らく米ドル安が続きました。また、過去100年ほどにわたって米ドルとカナダドルの為替レートを見ると、世界規模の戦争や恐慌などの発生後には必ずと言ってよいほど米ドルが下落しています。

これには世界各国による、いわゆる「有事のドル買い」と「平時のドル売り」が関係していると思われますが、一方でこうした傾向が米国にとって都合のよいものであることも事実です。米ドルが高い時期に借金をして膨らんだ米国の対外債務が、米ドルの下落によって目減りする効果があるからです。その効果を米国がどれほど意識しているかは定かではありませんが、このような基軸通貨の「特権」を見るにつけ、中国ならずとも世界各国が米国に「ひと言もの申したくなる」気持ちも分かるような気がします。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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