1. いま聞きたいQ&A
Q

グローバル化の是非について、どのように考えればいいですか?(後編)

グローバル化と民主主義は並び立たない?

グローバル化はこれまで、経済的な側面からみると関税や各種障壁のない自由貿易を実現することで、世界中の人々に豊かさをもたらすといわれてきました。一方で政治的な側面においては、人々が国境や国籍にとらわれない平和で自由な世界を目指す試みであり、「グローバル化の推進=民主化の推進」を意味するとみなされてきました。

すなわちグローバル化は経済的な豊かさと、自由や平等といった民主主義の理念を同時に世界中へ広げる“万能薬”のように喧伝(けんでん)されてきたわけです。しかし、ここにきてその考え方にはそもそも無理があったことが、専門家による過去の歴史や政治理論の検証を通じて明らかになりつつあります

「リベラル・ナショナリズム」という政治理論では、国民意識や愛国心などのナショナリズムがしっかり根付いている環境において、民主主義の理念が最も実現されやすいと考えます。現代社会で市民平等を実現するためには福祉などによる再分配政策が不可欠ですが、歴史的にみて福祉政策の実現に成功したのは例外なくナショナルな国民国家だそうです。

福祉とは、いわば相対的に恵まれた立場にある人々が、恵まれない人々を経済的に援助する行為です。たとえそれがなかば無意識の範疇(はんちゅう)に属するものだとしても、国民の強い連帯感や相互扶助のうえに成り立っているといえるでしょう。グローバル化の進展に伴ってこうした国民意識が希薄になれば、当然のことながら経済格差を是正して平等な社会を実現するのは難しくなります。

一個人が民主主義の理念のひとつである「選択の自由」を享受するためには、さまざまな人生の選択肢が手の届く範囲内に存在していなければならない、という考え方もあります。私たち日本人の職業選択を例にとると、多くの日本人にとって実質的に自由に選びとれる職業は、主として日本語を使って行える仕事であることが前提になります。

一部の日本企業ではすでに、事業のグローバル化に合わせて社内用語を英語に統一しようとする動きが見られます。あまりにこうした動きが広がりすぎると、英語を得意とする限られた人にとっては自分の能力を生かす機会が増えることを意味しますが、大多数の日本人にとっては職業選択の幅が狭まることにもなりかねないわけです。

これは一つの例に過ぎませんが、グローバル化と民主主義は本来、同時には成立し難い概念かもしれません。並び立つ可能性があるとしたら、「地球市民」や「世界政府」といった全世界を包括するようなアイデンティテーィが確立された場合でしょうが、それを期待するのはかなり無理がありそうです。

利潤追求の場が実体経済から乖離(かいり)した

英米を中心とする先進国がグローバル化の道を選んだひとつの背景として、自らの利潤につながる物理的空間を広げていきたいという願望があったことは確かです。しかし、実際には地球が有限である以上、そうしたマーケット開拓の試みがいずれ物理的な限界に突き当たることは目に見えています。そこで米国などがいち早く取り組んだのが、グローバルな「電子・金融システム」を構築して、バーチャルな取引空間において利潤を追求することでした。

ここまで来ると、もはや「望ましい社会の実現へ向けたグローバル化」などという高尚な議論は出る幕がなくなってしまいます。ある時期から、為替変動や商品市況が企業の損益に大きな影響を及ぼしたり、株価や不動産価格の上昇が人々に資産効果をもたらすといった話をよく耳にするようになりました。それらは私たち一般個人の実生活や実体経済から乖離した世界で進められている、グローバル企業と投資家による「マネーゲーム」といった感も否めません

そうした観点から気になるのが日本株市場の現状です。日経平均株価は今年(2017年)6月、約1年半ぶりに2万円の大台を回復し、その後も2万円前後で推移する展開が続いています。リーマン・ショック後の08年10月につけた直近の最安値からは3倍近くになった計算ですが、一方で日本国内では消費もGDP(国内総生産)もほとんど増えていません。物価や賃金の伸びも鈍いことから、株価の上昇は実体経済を反映していないと考えるのが妥当でしょう

主要な投資家の日本株保有額ランキングをみると、1位が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)で3位が日銀となっており、いわゆる官製相場が日本株の上昇に一役買っていることは間違いありません。しかも日本株の3割以上は外国人投資家が保有しています。日本を代表する年金基金と中央銀行が株価を下支えしても、場合によっては外国人投資家にかなりの利益を持って行かれる可能性があるわけです。

日本で反グローバル化の「のろし」が本格的に上がるとしたら、意外とその辺りの事情が明るみに出た時ではないでしょうか。とにもかくにも、日本では今日まで公的年金制度や国民皆保険制度などが維持されてきましたが、今後はグローバル化、とりわけ金融のマネーゲーム化に対してどのような反応を示すことになるのか。欧米以上に注目すべきなのかもしれません。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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