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Q

米国のトランプ新大統領は、世界経済に今後どのような影響をもたらすでしょうか?(前編)

市場は経済政策のプラス面だけに着目した

米国の大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利したことは、大方の市場関係者にとって予想外の出来事でした。この結果を受けて金融市場が示した反応も同時にまた、大方の予想を覆すものとなっています。

日本時間の今年(2016年)11月9日、開票が進むなかで外国為替市場の円・ドル相場は一時1ドル=101円台まで上昇しましたが、トランプ氏の勝利が確定した同日午後からは相場が反転。翌10日の夜にかけて、約3カ月半ぶりの安値となる1ドル=107円近くまで円安が進みました。その後も円安の流れは続いており、11月21日には一時、約半年ぶりに1ドル=111円台を記録しています。

TPP(環太平洋経済連携協定)に反対して保護主義的な通商政策を打ち出し、メキシコとの国境には壁を築いて不法移民の阻止を宣言する――。選挙中にトランプ氏が掲げた公約には、結果として米国経済の成長を阻害すると懸念されるものも多々あります。そのため当初は、同氏が大統領選で勝利した際には市場でリスクオフの動きが広がり、円高・ドル安が進むと予想されていました。

それがフタを開けてみれば円安に動いたのは、市場がとりあえずトランプ氏の経済政策におけるマイナス面には目をつぶり、半ばプラス面だけに着目してリスクオンの姿勢をとったからと考えられます。トランプ氏は今後10年で米国の実質経済成長率を4%まで上昇させ、2,500万人の雇用を創出するという目標を掲げています。その実現に向けた施策の大きな柱になるのが、大型減税とインフラ投資です

大型減税では主要国で最も高いとされる法人税率を35%から15%に引き下げるほか、米国企業が国外にため込んだ2兆ドル超の資金に国内還流を促すための特別税率も設定。アップルなどの多国籍企業が米国内に資金を戻す場合には、法人税率をさらに10%まで軽減する方針です。

インフラ投資では10年間で1兆ドルの投資額を想定しており、その財源のひとつとして米国企業の海外留保利益への課税も検討しています。つまり、多国籍企業が海外で稼いだ利益を米国内に戻すなら税率を低くするが、戻さないなら新たに課税してインフラ投資に充てるというわけです

大統領選の前からインフレ期待は高まっていた?

大型減税やインフラ投資を通じて景気刺激を図るためには、当然のことながら財政支出を大幅に増やす必要が出てきます。みずほ総合研究所の試算によると、トランプ氏が提案している減税やインフラ投資をその通りに実施した場合、今後10年間で米国の財政赤字は5.3兆ドルも増加する見込みです。

財政支出の拡大はインフレ加速につながるとの見方により、市場では投資マネーが債券から株式へシフトする動きが広がっています。米国ダウ工業株30種平均が最高値圏で推移する一方で米国債は大きく売り込まれ、大統領選前に1.8%程度だった米国の長期金利(10年物国債利回り)は11月18日に一時2.36%と、約1年ぶりの高水準まで上昇しました。

米国で急速に強まった金利上昇圧力は世界へと波及し、日本の長期金利も11月半ば以降はマイナスからプラス圏へと浮上しています。ただし、日銀は10年物国債利回りをゼロ%程度に誘導するという新たな緩和方針に沿って長期金利の抑え込みに動いており、ここにきて日米の金利差は拡大する傾向にあります。

一般論としては金利差が拡大すると、金利面の魅力からドル買い・円売りの流れが強まります。こうしてみる限り、今回の予想に反する円安・ドル高の進行は、インフレ期待の高まりという「トランプ相場」の産物だったように思えます。まだ実際に始まってもいない次期大統領の経済政策に対する期待先行の分だけ、市場の思惑が外れた際の相場反転には警戒が必要ともいえるでしょう。

ただ、一方では大統領選の前からもともとインフレ期待は高まっていたという指摘もあります。16年の後半以降、中国経済の堅調さや原油価格の底入れなどにより、市場では世界的な需要回復や景況感の改善が意識され始めていた模様です。その意識を共有していたからでしょうか、FRB(米連邦準備理事会)も選挙前の11月1日~2日に開催した米連邦公開市場委員会後の声明で、インフレ期待が上向いていることに言及していました

世界的にインフレ期待が高まりつつあったところへ、トランプ氏の当選でさらに弾みがついたということならば、今回の円安・ドル高は意外と長続きしそうです。もっとも市場には、いずれ米国の財政悪化が「悪い金利上昇」をもたらすことになるという意見もあります。楽観と悲観が入り混じるなかで、今後しばらくはトランプ氏の一挙一動に市場が振り回されるというのが、いちばん確かなシナリオかもしれません。

次回はまた違った観点から、引き続きトランプ新大統領が世界経済にもたらす影響について考えてみたいと思います。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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