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いま聞きたいQ&A

オルタナティブ(代替)投資が注目を集めているのはなぜですか?

株式にまで広がった債券代替投資の流れ

オルタナティブ(代替)投資とは、株式や債券といった伝統的な資産以外にも投資対象を広げて運用効率の向上を図る手法のこと。代表的な投資対象としては、金をはじめとするコモディティ(商品)や不動産、インフラファンド、ベンチャーキャピタルなどが挙げられます

これらの資産は一般に株式や債券などとはリターンの源泉やリスク特性が異なるため、投資家が運用ポートフォリオに組み込むことで、従来とは異なる形の分散効果を見込むことができます。この新たな分散効果こそが、オルタナティブ投資の本来的かつ最大の機能といっていいでしょう。

ところがここ数年は、オルタナティブ投資が違った側面から注目を集める事態となっています。日米欧の先進国による大規模な金融緩和を通じて、国債など債券の利回りが極端に低くなるなか、債券の代わりに手堅いリターンを稼ぐ手段としてオルタナティブ投資を活用する投資家が増えてきました

その中心的な存在が年金基金などの機関投資家です。JPモルガン・アセット・マネジメントが日本の確定給付企業年金を対象に行った調査によると、企業年金の運用ポートフォリオにおける国内債券の比率は2009年には4割に上っていましたが、16年3月末に初めて3割を切りました。代わって増えたのがオルタナティブ投資で、その比率は直近で14.0%と7年前の約3倍にまで膨れ上がっています。

オルタナティブ投資の流行は、結果として株式投資にも影響を及ぼすことになります。例えば日本の株式市場では、今年(16年)の半ばまで「債券代替投資」が大いに人気を博していました。これは債券の代わりに業績や配当が安定していて相対的に値動きも小さい株式を購入することで、本来は債券が担うインカムゲインの確保を株式によって実現しようというもの。純粋な意味でのオルタナティブ投資とは異なりますが、少しでも手堅くリターンを稼ぎたいと願う投資家が編み出した、苦肉の代替投資手段といえます

債券代替投資に活用されたのは、食品や医薬品、小売りなどのいわゆる内需ディフェンシブ銘柄が中心です。これらの業種では生活必需品を扱う企業が多いため、総じて業績が国内景気や外的な経済環境に左右されにくく、配当も安定的に高いという特徴があります。あまりの人気ぶりから一部の銘柄では株価が割高になってもさらに買われるという、まるで成長株のような様相を呈することになりました。

「守り」の機能を代替するのは無理がある?

風向きが変わったのは今年の夏頃からです。米国の年内追加利上げを見越した株式市場では、海外投資家を中心に「脱・債券代替投資」の流れが急速に広まりました。主な代替銘柄について、株価の年初来高値と9月26日時点の終値、および当該期間中の騰落率を以下に示します。

●明治ホールディングス
7月8日 10,930円 → 9月26日 9,760円(-10.8%)
●アステラス製薬
8月1日 1,779円 → 9月26日 1,589円50銭(-10.7%)
●しまむら
6月28日 16,450円 → 9月26日 12,390円(-24.7%)

債券代替投資の“揺り戻し”は、中央銀行による大量の資金供給と超低金利によって歪んだ金融市場が、その歪みを是正しようとする動きと見ることもできます。しかしながら本来、国債などの国内債券は満期まで保有すれば安定したリターンが稼げる「守り」の金融資産であり、そうした貴重な機能を他の資産によって代替することには無理があるのも事実でしょう

株式と国債に運用資金を半分ずつ投資した場合、株式で年に10%の損失を出したとしても、国債の金利が年2%あれば損失は5年で埋められる計算になります。国債の金利が1%だと10年かかることになり、マイナス金利では時間によって損失を埋めることはもはや不可能です。こうした概念に基づく限り、国内債券の機能が失われると投資家のリスク許容度が低下し、必然的にリスクの高い投資には慎重になると考えるのが自然です。

にもかかわらず、オルタナティブ投資の増加が示すとおり、ある程度のリスクは覚悟のうえで少しでも高いリターンを追求しようとする投資家は後を絶ちません。そんな折、日銀は9月21日の金融政策決定会合で、10年物国債の利回り(長期金利)をゼロ%程度に誘導するという新たな金融緩和の枠組みを発表しました。それがただちに緩和縮小を意味するわけではありませんが、日銀が従来の金融緩和策を転換する必要に迫られていることは明らかでしょう。

FRB(米連邦準備理事会)がペースは遅いながらも利上げを志向していることを踏まえると、今後は金利が神経質に動きながら少しずつ上昇へ向かっていく可能性も視野に入れておいた方がいいかもしれません。その場合、不動産など金利変動に対する感応度が高い資産の価格動向が気になるところです

次回は代替投資先としてとくに日本で注目が高まっている不動産について、人気の背景や今後の注意点などを考えてみたいと思います。

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