1. いま聞きたいQ&A
Q

今、世界的に物価が上がりにくくなっているようですが、その理由は?(後編)

先進国におけるバブル後の諸政策がインフレを抑制

バブルの生成期には株式や不動産など資産価格の度を過ぎた上昇によって、家計も企業も大きな含み益(余剰資金)を手にします。それをもとに家計は消費やさらなる投資を増やし、企業は設備と労働力の増強を通じて生産・供給能力を目いっぱい高めていきます。銀行などの金融機関もここぞとばかりに投融資を増やすため、家計や企業はなかば借金もいとわずに消費や投資へ突っ走ることとなります。

一方で、バブルが崩壊すると資産価格が急激かつ大幅に下落するため、債務超過に陥る家計や企業が続出します。債務返済を優先して家計は消費にお金を回しにくくなり、企業は設備投資を控えると同時に労働力や賃金などのコスト削減へ向かうようになります。結果としてバブル期に膨れた債務、生産・供給力、労働力などの「複合的な過剰」が重荷となり、前向きな経済活動が抑制されることになるわけです。

とりわけ賃金低下や家計の債務負担は、直接的に内需の低迷につながります。金融機関では不良債権が増大しますが、その処理が遅れて金融システム不安が広がったような場合には、家計や企業の経済的な委縮はいっそう顕著かつ長期にわたるものとなります。

バブル崩壊後の内需低迷に対処する方法としては、一般に財政出動と金融緩和が有効といわれています。ただし、近年ではこれらの政策にも限界が見え始めてきたようです

例えば先進国における直近のバブル事例は、2007年に米国で起きた不動産バブルの崩壊と、それに伴う08年のリーマン・ショックおよび世界的な金融危機の発生です。08~09年には先進各国の協調のもと、財政出動と金融緩和による強力な内需刺激策が実施されました。

しかし金融危機が終息へと向かうなか、10年6月にカナダで行われたG20(20カ国・地域首脳サミット)では、主要先進国がいずれも緊縮財政に方向転換することが確認されました。多くの先進国で財政赤字が膨らみすぎて、将来的にそれらが世界経済に及ぼす悪影響が危惧されるようになったからです。

積極的な財政出動ができなくなった先進各国は、景気の下支え役を中央銀行の金融緩和に託すことになります。特に各国が政策金利を0%近くまで引き下げた後は、「利下げ」という手段も使えないため、「量的緩和」など非伝統的な金融政策に頼るしかなくなりました。

皮肉なことに、量的緩和によって中央銀行から市場に供給された大量の資金は、その多くが自国の内需拡大ではなく、新興国など海外への投融資に向かいました。結果的に先進国の外需依存に拍車をかけた格好です

加えて08年以降は金融機関の破たん防止や金融システム安定化に向けて、金融機関に対する規制が強化される方向にあります。こうした先進各国におけるバブル崩壊後の諸政策には、いわばインフレを抑制する効果があり、それが世界的な低インフレを招く一因になったともいわれています。

通貨制度から見る世界経済へのインフレ圧力は高い

緊縮財政や金融機関への規制強化がインフレ抑制につながるとしても、一方で中央銀行による市場への大規模なマネー供給がインフレを促すことにはならないのでしょうか。

ある市場関係者の話によると、200年以上の超長期で世界経済を見渡した場合、19世紀はデフレになりやすく、20世紀はインフレになりやすい時代だったと考えられるそうです。19世紀から20世紀の初頭にかけては、金本位制のように希少性のあるモノを裏付けとした通貨制度を欧米諸国が採用していたため、通貨そのものの希少価値も保証されていました。その分、モノの価値や魅力が低下してデフレが発生しやすかったというわけです。

20世紀に金本位制が廃止され、各国が自らの裁量で好きなだけ通貨を発行できるようになると、通貨の価値が人為的に毀損されるリスクが生じてきます。相対的にモノの価値が高まって、経済にインフレ圧力がかかりやすくなりました。

そして21世紀の今日。新興国の成長鈍化や原油など商品価格の低迷、賃金水準の低位安定、人口高齢化など、表向きは低インフレの恒常化を示唆するデータが並んでおり、世界経済を「長期停滞」と結論づけたくなる気持ちも分かります。しかしながら、通貨制度から見れば20世紀と同様にインフレ圧力はいまだ高い状況が続いています。実際に日米欧の中央銀行が量的緩和を通じて市場に供給した通貨の量は、過去に類を見ない規模にのぼっているのです。

経済が停滞しているがゆえにインフレを芽生えさせるという逆説があり得るならば、21世紀は不況下のインフレ(スタグフレーション)を警戒すべきというのが、前出の市場関係者の指摘です。もしもこの説が正しければ、現在の世界的な低インフレは「嵐の前の静けさ」ということになります。

かたや経済の長期停滞、かたやインフレの前触れと、専門家の意見もずいぶん極端に割れたものですが、いずれにしてもこの問題の本質が判明するまでには、いましばらく時間を要することになりそうです。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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