1. いま聞きたいQ&A
Q

原油価格が急落した理由と、今後の見通しについて教えてください。

価格の下落基調を容認したサウジアラビア

このところ原油価格の急落ぶりが目立っています。例えば国際指標のひとつでロンドン国際石油取引所の先物市場に上場している北海ブレント原油は、今年(2014年)6月には1バレル115ドル台を付けていましたが、10月16日には一時1バレル83ドルを割り込み、約4年ぶりの安値を記録。同月30日現在では1バレル86ドル台となっています。

原油価格は過去数年間にわたっておおむね1バレル100ドルを上回る水準を維持し、今年も6月半ばまでは、イラク情勢など地政学リスクの高まりを背景に価格は上昇傾向にありました。それが一気に不安定化した大きな要因として、需給関係の変化を挙げることができます

需要については、欧州でデフレ懸念の拡大により原油の需要鈍化が見込まれるほか、中国でも不動産市況の不振にともなって建設関連の石油製品やガソリンの需要が減少しています。国際エネルギー機関(IEA)は10月14日に、2014年の世界の原油需要見通しを4カ月連続で下方修正しました。

一方で供給は堅調に伸びています。米国ではシェールオイルの生産が本格化し、1日当たりの原油生産量は28年ぶりの高水準にあります。輸入が大きく減る半面、輸出は日量40万バレルを上回り、約50年ぶりの水準に迫ろうかという勢いです。OPEC(石油輸出国機構)加盟国の原油生産量も9月に13カ月ぶりの高水準を記録しており、原油はいま世界的な供給過剰にあるといえます

興味深いのは、世界最大の原油輸出国サウジアラビアの動向です。同国はOPECの盟主であり、生産調整によって原油価格の安定化を主導する役割を担っています。従来なら原油価格が大きく下落した際には同国がいち早く減産を打ち出すのが通例ですが、今回はまだ介入に動いていません。逆に、同国の国営石油会社サウジアラムコが11月のアジア向け原油販売価格を引き下げると発表するなど、原油価格の下落基調を容認するような姿勢さえ見せています。

ドル高を中心に原油価格の押し下げ圧力が増幅

実はこうしたサウジアラビアの動きには、米国のシェール革命が間接的な影響を及ぼしています。米国で原油の国内生産が増えた結果、今年7月にナイジェリア産原油の米国向け輸出量がゼロになるなど、これまで米国を主な輸出先としてきたアフリカや中南米産の原油が余剰となりました。それらが割安な価格でアジア市場に流入したため、アジアで高いシェアを握ってきた中東諸国は対抗措置として販売価格の値下げに踏み切ったというわけです。

IMF(国際通貨基金)によると、サウジアラビア産原油の採算ラインは1バレル86ドルで、現状の価格水準では収支がギリギリの状態です。それでも同国が価格より供給量の維持を優先する理由として、市場シェアを確保する目的のほか、潜在的なライバルである米国や対立するイランに打撃を与えるという狙いも指摘されています。

北米産シェールオイルの採算ラインは1バレル70ドル程度であり、このまま原油価格の下落が続けば、採算悪化によって米国シェール業界に投資縮小などの悪影響をもたらす恐れがあります。イラン産原油の採算ラインは1バレル100ドル超といわれており、核開発問題による欧米の経済制裁で原油輸出が制限されるなか、価格低迷はイラン経済にとって大きな痛手となります。

原油価格が不安定化した要因としてもうひとつ、ドル相場の影響も見逃すことができません。今年の半ばから9月にかけて、ドルは円だけでなくユーロに対しても急激な上昇を記録し、市場ではドルおよび米国経済の「独り勝ち」といわれていました。原油はドル建てで取引されるため、ドル高が進むと割高感が高まって原油価格が下落しやすい傾向にあります

そこに前回お話ししたような米国の利上げ観測による緩和マネーの流出懸念や、欧州および中国の景気下振れを通じた原油需要の減少懸念が相まって、原油価格の押し下げ圧力が増幅されやすかったというわけです。

10月に入って米国の早期利上げ観測が後退し、ドル高の進行も一服するなかで、原油価格を巡る状況は新しい局面に入ったと考えられます。米国経済の先行きが不透明な状態が続いた場合、ドル安による割安感から原油価格が上昇しやすくなる一方で、世界的な景気減速は需要減少につながるため、価格の押し下げ要因としても働きます。こうした上下逆方向の圧力が交錯するため、ドルの動きが原油価格に及ぼす影響は限定的になるかもしれません。

今後の原油価格のカギを握るのは、やはり需給関係ではないでしょうか。11月下旬に開催されるOPEC総会で加盟国が協調減産に踏み切れば、これまで売りに回っていた投資マネーが一斉に買い戻しに走る可能性もあります。サウジアラビアがどのような思惑の下、どのような判断を下すのか、大いに注目したいところです。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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