1. いま聞きたいQ&A
Q

投資のリスクを低減する新しいタイプの運用法とは、どのようなものですか?

相場動向をキャッチして資産比率を機動的に組み替える

2008年のリーマン・ショックと金融危機に際しては、日本でも多くの投資家が資産価格の急激かつ大幅な下落を経験することになりました。その教訓から、特に個人投資家の間では、資産価格の歴史的な安定状態が続いている今日においても、リスク(価格変動)をできる限り低く抑える運用法へのニーズが高いようです。

例えば投信では従来、あらかじめ決められた投資比率に基づいて複数の資産に国際分散投資を行う「バランス型投信」が、そうしたニーズに対応するものと位置づけられてきました。しかしながら、08年には各資産がそろって値下がりしたため、全天候型として相場の下落局面に強いはずだったバランス型投信の基準価格も急落の憂き目に遭いました。国際分散投資といえども、決して万能ではないことが明るみになったのです。

ここにきて、バランス型投信の改良版ともいえる「リスク調整型投信」が相次いで開発され、個人投資家の人気を集めています。リスク調整型投信の最大の特徴は、さまざまな指標を参考に相場動向をキャッチし、それに応じて各資産や現金の比率を機動的に組み替えること。迫りくる危機を事前に察知してリスク量を調整し、基準価格の下落を極力避けるのが狙いです。

当然のことながら、リスク調整型投信では相場動向を見極めるための指標として何を用いるかが大きなポイントになります。基本的には国内外の株式や債券など各市場におけるボラティリティー(価格変動率)の推移を細かく観測し、投資判断につなげるケースが多いようですが、なかには独自のユニークな指標を活用しているものもあります。

あるリスク調整型投信では、投資家のリスク選好度(どれだけリスクをとろうとしているか)を示す「リスク態度指数」を独自に算出し、その水準に合わせて自動的に資産配分を見直す仕組みを採用しています。ボラティリティーに加えて、それを招く一因となる投資家心理も読み解くことで、相場動向をより精緻に見極めようとする試みといえるでしょう。

時価総額に縛られず、リスク低減をうたった株価指数も登場

株価指数についても「スマートベータ」と呼ばれる新しいタイプの指数が相次いで登場し、注目を集めています。最大の特徴は、指数を構成する銘柄の組み入れに際して時価総額に縛られないようにした点です。

これまで機関投資家の多くが指数連動型の運用で利用してきたTOPIX(東証株価指数)や米国S&P500指数などは、時価総額で加重平均して銘柄を組み入れるため、株価上昇によって時価総額が大きくなった銘柄ほど構成比率が高まります。結果として割高な銘柄を多く抱え、割安な銘柄は少ししか保有しない懸念がつきまとうわけで、特に株価が大きく変動する局面において運用の効率性が損なわれる懸念があります。

スマートベータは指数算出会社などがさまざまな戦略や独自ルールに則って指数をつくり、機関投資家向けに提供しているもの。一部は投信会社によって個人向けのインデックス投信にも採用されており、今年(2014年)1月から算出が始まった「JPX日経インデックス400」もそのひとつといえます。

スマートベータは基本的に、従来の時価総額型を上回る収益性を目指す指数と考えられますが、同時に運用の安定性やリスク低減の面でも投資家の期待が高まっています。リスク低減をうたったものとしては、個別銘柄の特性に着目してリスクが低い銘柄の比重が大きくなるように構成する「リスクウエイト指数」や、銘柄間の相関を重視し、できるだけ少ない銘柄で指数全体の変動率が最小になることを目指す「最小分散指数」などがあります。

専門家によるとスマートベータの多くはこれまでのところ、従来型の株価指数に比べて収益率、投資効率ともに優れているようです。今後もさらに新しいタイプの指数は増えていく見通しで、その効用が広く認められれば、従来のアクティブ運用がスマートベータ運用に取って代わる可能性も指摘されています。

興味深いのはリスク調整型投信もスマートベータも、運用の仕組みをつくる過程でいわば“アクティブ運用的な”取捨選択やルール策定を行っていること。そもそも国際分散投資やインデックス運用には、投資家による自由裁量の余地を極力排除することで、運用の効率性を追求するという目的があったはずです。それに逆行するような形で、あえて投資家が手を加えるタイプの新しい運用法が広がっているという事実を、どう考えればいいのでしょうか。

運用が進化した、という考え方も当然できます。しかし、こうした運用法が登場してきた背景に投資マネーの短期主義や超高速取引などによる市場のゆがみ(非合理性)が存在し、そのゆがみが今後も断続的に表れるとするならば、投資家による「手入れ」にも終わりは見えないような気がします。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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