1. いま聞きたいQ&A
Q

「フォワード・ガイダンス」について教えてください。

低金利の長期化を約束し、緩和効果の浸透を図る

フォワード・ガイダンス」とは、中央銀行が金融政策の先行きについて事前にその運営方針を示す手法のこと。現状では、中央銀行が低金利政策を今後も長期にわたって続けると約束するケースが一般的です。低金利政策が長期化するとの予想や期待を市場で高めることにより、短期金利だけでなく長期金利にも低下圧力をかけ、緩和効果の浸透を図るという狙いがあります。

具体的には、

  • ● 低金利政策を長期的に続けることを宣言する
  • ● 低金利政策を解除する時期を明示する
  • ● 低金利政策を解除する条件を明示する

などの方法が、各国の中央銀行によって実際に採用されています。

例えばFRB(米連邦準備理事会)は、過去5年余りの間にこれら3つをすべて実行しています。2008年の金融危機後、FRBは量的金融緩和とともにフォワード・ガイダンスを打ち出しますが、当初は文言で「ゼロ金利を長く続ける」と宣言するにとどまっていました。その後、ゼロ金利政策は「2014年終盤まで」などと具体的な解除時期を示し、12年12月からは「失業率が6.5%を下回るまで」という具合に解除条件も明示しています。

さらに今年(14年)3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)において、FRBは解除条件から失業率6.5%の数値基準を削除すると発表しました。今後は数値基準を設けず、雇用情勢など多角的な切り口から判断する「質的ガイドライン」に移行するようです。その背景には、米国の失業率が今年1月に6.6%まで低下するなど想定以上のペースで改善されたという現実があります。

解除条件はあくまでも目安としての位置付けなので、たとえ失業率が6.5%を下回ったとしても、ただちに利上げを迫られるわけではありません。しかし、少なくともガイダンス(指針)としての機能は事実上、失われることになります。FRBとしては、フォワード・ガイダンスの重点を「数値」から「質」に転換することで、金融政策の自由度や裁量を確保する狙いがあるようです。

こうした度重なるガイダンスの修正に対して、市場では批判的な声も少なくありません。FRBは現在、景気の回復基調を受けてQE3(量的緩和第3弾)の縮小を進めていますが、辻つま合わせのようなガイダンス内容の追加・変更は、FRB自身が先行きを十分に見通せていないことの現れとも受け取れます。これでは約束によって市場に低金利が続くという安心感を与えるどころか、逆に利上げへの疑心暗鬼など、市場の混乱を呼ぶばかりではないかという懸念が広がっているのです。

金融政策の正常化を不要に遅らせるという副作用も

日銀の黒田東彦総裁は、13年4月に量的・質的金融緩和を導入するに当たって「2年程度で物価上昇率を2%まで高める」というインフレ目標を掲げました。インフレ目標は将来にわたって金融政策の方針を示すという点では、フォワード・ガイダンスと同じような意味を持つ手法です

日銀が「2年程度で2%」の物価上昇シナリオを示したのは、人々のインフレ期待を高めることにより、実質金利(名目金利-予想物価上昇率)の低下を促して経済を刺激し、景気回復とデフレ脱却を実現するためです。一方でこのシナリオには、量的・質的緩和策も2年程度で終わってしまうのではないかという疑念を市場に抱かせる側面もあります。そうした疑念は意図せぬ長期金利の上昇など、日銀にとって好ましくない結果を招きかねません。

そのため日銀は当初から量的・質的緩和策を「2%の『物価安定の目標』の実現が、安定的に持続するために必要な時点まで継続する」と説明しており、緩和策が2年程度で終わるとは限らないことを匂わせています。まどろっこしい表現ではありますが、この説明こそが黒田日銀のフォワード・ガイダンスにあたるといえるでしょう。

FRBも日銀も金融緩和の効果を浸透させるためというよりは、むしろ「金融緩和と景気回復の同居」を市場に意識させるためにフォワード・ガイダンスを利用しているように思われます。金融緩和による長期的な「カネ余り」に慣れてしまった市場の期待をつなぎとめ、株高などを演出して景気の腰折れを防ぎたい、あるいは長期金利の低位安定を図りたいという狙いは分からないでもありません。

しかし、こうしたいわば自己矛盾をはらんだ政策には副作用がつきものです。前述したFRBによる相次ぐガイダンス修正や議長発言に対する市場の過剰反応などは、その一例ではないでしょうか。国際決済銀行(BIS)が指摘するように、フォワード・ガイダンスへの依存や執着が金融政策の正常化を不要に遅らせ、金融のゆがみを蓄積させることを中央銀行は今一度、肝に銘じるべきかもしれません。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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