1. いま聞きたいQ&A
Q

新興国から広がった世界的な金融市場の混乱について、どのように考えればいいですか?

投資マネーの“新たな連想ゲーム”が始まった

直接の発端は今年(2014年)1月23日に、アルゼンチンの通貨ペソが急落したことです。同国はこれまで「ペソ買い・ドル売り」の為替介入によって自国通貨を支えてきましたが、介入に必要な外貨準備が減ったことで、これ以上の通貨防衛は難しいとの観測が市場に広がり、急激なペソ売りを招きました。同日に発表された中国の景況感指数の悪化によって、大豆や小麦など中国向けの農作物輸出が伸び悩み、外貨獲得が難しくなるとの思惑が働いたことも影響しています。

ただ、アルゼンチンは01年にデフォルト(債務不履行)を宣言し、いまだに国際金融市場から実質的に締め出された状態にあります。そんな国の通貨急落が他の新興国の通貨安はもとより、日米欧の先進国をも巻き込んだ世界同時株安につながるというのは、どうにも腑に落ちません。

背景にあるのは、FRB(米連邦準備理事会)が量的金融緩和の縮小に乗り出したことにより、世界の投資マネーの間で“新たな連想ゲーム”がスタートしたことです。以前も紹介したように、FRBの3段階にわたる量的緩和を通じて世界中の投資家は通常より有利な条件で米ドルを調達し、それを新興国など、より高いリターンが狙える投資先に振り向けてきました。08年のリーマン・ショック以後、新興国に流れ込んだ米国の「緩和マネー」は5,000億ドルに迫るともいわれています。

FRBによる量的緩和の縮小は、投資家が有利な条件で資金を入手する経路が細っていくことを意味します。また、米国の長期金利が上昇へ向かうため、新興国に対する投融資の相対的な魅力は次第に低下していきます。そのため、量的緩和の縮小が進むのに伴って、新興国から投資マネーが流出するとの憶測や懸念が強まっているのです。

今回、特に大きな影響を受けたのはトルコ、南アフリカ、インド、ブラジル、インドネシアの「フラジャイル5(脆弱な5カ国)」と呼ばれる新興国です。これらに共通するのは、経常赤字や高インフレ率などの理由から、国の運営・成長資金を海外からの投融資に依存しており、量的緩和の縮小が打撃になるという連想が広がりやすいこと。アルゼンチンと同様に外貨準備を蓄積しにくく、為替介入で自国通貨を支えるのに限界があるのも特徴です。

投資マネーが一斉に引き上げたことで、フラジャイル5をはじめ一部の新興国では急激な通貨安、株安に見舞われました。それを機に世界的な「リスクオフ」の動きが強まり、退避先として米国債や日本円など相対的に安全とされる金融資産に資金が流入。一時的に円高が進んで日本株が大きく下落したほか、米国やドイツなど他の先進国でも株安が進みました

新興国から過剰に資金を引き上げる意味

アルゼンチン通貨の急落以外にも、米国や中国において景気指標が大きく低下したり、事前の市場予想を下回るなど、投資家の心理を動揺させる悪材料がいくつか重なりました。ただ、それにしても市場の反応はあまりに過剰といえるのではないでしょうか。米国の景気回復が大きな変調をきたしたわけではないし、中国経済もかつての高速成長の勢いこそないものの、今年も安定成長が見込まれています。

新興国も全般的にみれば危機への耐性は上がってきています。90年代後半のアジア通貨危機などを教訓に、多くの新興国では自国通貨を変動相場制へ移行し、外貨準備も着々と積み上げてきました。フラジャイル5も経済に脆(もろ)さがあるとはいえ、今回の震源地となったアルゼンチンほど深刻ではありません。そもそも昨年夏には、FRBが量的緩和を縮小するとの観測が浮上しただけで新興国の通貨は下落しており、実際に量的緩和の縮小が始まれば、新興国からの資金流出がある程度進むことは十分に予測できたはずです。

世界の投資マネーが新たな連想ゲームを始めたからといって、私たち一般の個人投資家までもがそれに振り回される必要はありません。私たちにとって重要なのは、現在の短期的なマネー動向をいちいち気にかけることではなく、結果として将来、市場に何が起こるのかを長期的な視点からイメージすることではないでしょうか

例えば、投資マネーが新興国から過剰に資金を引き上げるという行為には、新興国にあえてショックを与えることで構造改革などの抜本的な問題解決を迫る効果が期待できます。中長期的には、経済成長率において新興国が先進国を上回ることや、先進国がマーケットとして新興国のさらなる経済発展を必要とすることなどは明らかでしょう。すなわち、投資マネーにとっては上記のような働きかけを通じて、新興国を中長期的に有望な投資先として育てる動機があることになります。次回はこうした観点も踏まえながら、投資対象としての新興国をどのように捉えればいいのか、考えてみたいと思います。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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