先駆者たちの大地

株式会社三越 創業者 三井高利

“売り場”ではなく“お過ごし場”

三越本店新館の写真
1914年9月15日に完成した三越本店新館。「デパートメントストア宣言」から10年後、初めて姿を現した日本初の百貨店で、「スエズ運河以東最大の建築」と称された

東京・日本橋の三越本店では、毎日正午になると吹き抜けの中央ホールにパイプオルガンの壮麗な音が鳴り響く。パイプオルガンはバッハなどの古典や宗教音楽の演奏に使われる楽器で、本来は教会や、クラシック音楽用のホールに据え付けられているものである。三越という百貨店が、数ある商業施設や三越以外の百貨店と明らかに一線を画すとすれば、その違いは、パイプオルガンが演奏されるような場として百貨店を捉えてきた、その考え方にあるだろう。三越にとって百貨店とは、ただ“百貨”の揃った場所ではない。店内は“売り場”ではなく“お過ごし場”なのだという。「今日は帝劇、明日は三越」という有名なキャッチフレーズは、1913年(大正2年)、帝劇のパンフレットに掲載された三越の広告のコピーだが、この言葉が言い当てているように、三越は人々にとって着飾って出かける晴れの場の象徴であった。

商品とともにある種の文化を提供するこうしたスタイルは、百貨店という形態が生み出されるはるか以前、創業者・三井高利の才覚によって始まったものである。高利は数々の新しい販売方法を考案したが、それによって売り手と買い手の間に、それまでには見られなかった新しい関係が生まれていった。この新しい関係こそ、三越という百貨店の萌芽である。今から300年以上前の江戸本町で、その歴史は始まろうとしていた。

IRマガジン2003年1-2月号 Vol.59 野村インベスター・リレーションズ