松下電器が往年の輝きを失った要因は、時代との離反にある。では時代はどのように変わったのか。最大の変化はアナログからデジタルへの移行だった。
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| 本社外観 |
デジタル化によってさまざまなソフト開発に膨大なコストが必要となる。次々に進化を繰り返す技術によって、製品のコモディティ化に拍車がかかる。すべてのムダを排除したスピードのある組織と動きが要求されるのである。垂直立ち上げの発想はこうしたなかから必然的に生まれてきた。パナソニックマーケティング本部長の牛丸俊三専務は「製品に最も魅力があるのは発売日だ」と言う。どんなに魅力的な製品でも、発売日から時間が経つと対抗商品が登場し、先進的な技術やアイデアも競合他社製品のなかに埋もれてしまう。製品が最も先進的で価格競争力を持ちうるのは発売日にほかならないというわけである。そこで発売と同時に急角度で売り上げを伸ばし短期間でトップシェアをとろうという戦略だが、そのためには発売日から逆算し、製造、販売、マーケティングとすべての部門が密接に連携して準備を進めなければならない。事業部制の製造、流通、宣伝、広報が別組織になっていた従来の松下電器ではこれは不可能であった。中村改革の「破壊と創造」のひとつの目的はここにある。
製品寿命の短いデジタル化のなかで生き残るには、コスト競争力を高め、魅力ある製品を次々に市場に送り出していかなければならない。
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| システムLSI「PEAKSプロセッサー」搭載の高画質回路「PEAKS」 |
「ビエラ」の世界中での一気呵成のシェア獲得の原動力に「PEAKSプロセッサー」というシステムLSIがある。世界中の市場でテレビを同時期に並べるには、地域によって異なる放送方式への対応、膨大なチャンネル数への対応など、さらに越えなければならないハードルがあり、この「PEAKSプロセッサー」というグローバルプラットフォームがなければ実現できなかったことである。このマーケティングによって、松下はプラズマテレビのアメリカでのシェアを、それまでの10%台から一気に40%以上に引き上げトップシェアを確保した。松下全体の売り上げにとってテレビ事業の占める割合は8%程度だが、中村はテレビを重視する。家電メーカーにとってテレビは顔で、テレビによってブランドイメージが形成されていくと考えているからだ。中村改革を簡潔に表現すれば、松下電器を、最新のテレビを世界同時展開できる会社にした、ということだろう。
さて、巷間いわれるように、中村の「破壊と創造」は幸之助神話の破壊だったのだろうか。幸之助が好んで使った「日に新た」という言葉がある。常に時代に即して変わり続けなければならないという意味である。むしろ松下幸之助の信奉者であった中村邦夫は、この言葉に従ってデジタル時代に松下電器を再生させたということだ。しかもその中心には、「ビエラ」に代表されるように、日本企業のDNAである「ものづくり」がしっかりと据えられている。中村改革は、道を見失いかけていた日本企業の経営に新たなビジネスモデルを示したともいえるだろう。松下幸之助が今の松下電器を見たら、間違いなく拍手を送ることだろう。
IRマガジン2006年春号 Vol.73 野村インベスター・リレーションズ