2006年12月12日
Disciplineと言う言葉は日本人にとって必ずしも聞きなれたことばではありません。英和辞典によりますと、「しつけ、規律、規範、戒律」と言った訳語が見つかります。
欧米人にとってこのDisciplineと言う言葉はかなりよく使われる言葉です。投資運用の世界でも同様です。しかし、これを日本語に訳そうとするとなかなか適切な訳語が見つかりません。恐らく文化の違いに由来するのでしょう。上記の訳語の中で比較的近いのは「規範」かもしれません。
具体的にこの言葉が使われる例を示しましょう。9月下旬に新しい首相に就任した安倍首相は最初の記者会見の中で2回にわたり「規範」と言う言葉を使いました。最初に出てきたのは教育再生についてのくだりで、「すべての子供たちに高い水準の学力と規範を身につける機会を保証しなければならない。」と述べられました。さらに、記者団との質疑応答の「美しい国」についての解答の中で、「規範を守る経済でなければならない。」と語りました。ここで安倍首相が使った「規範」は私が言うDisciplineにかなり近い意味だと思います。
投資運用の分野で考えてみましょう。仮に短期債に投資をするファンドがあったとします。そのファンドの目論見書をみますと、「当ファンドは期間1年未満の短期国債に投資することにより、短期国債の値動きを示すベンチマーク(市場の基準となる指標)を上回る投資収益を狙った運用を行います。」と記されています。仮に債券市場で中長期債の利回りが短期債の利回りの低下を上回る速さで低下したとします。中長期債の価格上昇が見込めるわけですから、当該ファンドの運用者としては中長期債を組み入れて良い運用成果を挙げたいと考えます。事実その方がパフォーマンスは良くなり、投資家にとっても利益を得ることになります。
さて、皆さんがこのファンドに投資しているとしたらどう思いますか?一見運用者の判断は正しかったように見えます。しかしよく考えてみますと、この運用者の行為は当該ファンドの「短期国債のみで運用すること」を約束した運用基準から逸脱しています。これがまさしくDisciplineの問題なのです。
長期債を組み入れることにより当該ファンドの性格は変わってしまいます。このファンドを購入した投資家は短期国債の値動きによるリターンとリスクを前提として当該ファンドへの投資を行ったのですから、長期債が組み入れられることにより、当該ファンドのリターンとリスクの関係は崩れてしまいます。一般的にいえば長期債は短期債に比べ金利変動リスクは高いと考えられますから、もしも当該投資家が自分の資産全体のとり得るリスク許容度に基づいて最適な資産配分をしていたとしますと、当該ファンドに長期債が組み入れられたことにより、その投資家が取り得るリスクの範囲(リスク許容度)を超えたポートファリオになってしまう恐れがあります。従って、運用者は、パフォーマンスが低くなっても、当初に投資家に約束した運用基準を守る必要があります。これが運用者としての「Discipline」なのです。
相場の変動に対して運用者が取るべきことは、あくまでも目論見書で取り決めた条項の範囲内で行わなければなりません。投資家は長期投資を行う以上、金利の変動が一時的であれば、その変動に動ずることなく初期の投資方針を貫けばよいでしょう。また、その変動が構造的な問題と考えれば自分の取りうる長期的なリスクの範囲内で、当該ファンドを減らし長期債ファンドを組み入れるべきでしょう。
以上、少しむずかしいお話だったかもしれません。しかし、将来に向けた資産形成を考えるためには、勉強していく必要がありますね。

Discipline、覚えておこう
